ゆびさき




四時五分






選抜練習の解散の号令から三十分は悠々経って、今後の連絡やその他雑務のちょっとした打ち合わせで一人残されていた千裕がロッカーに戻ってくると、何故かそこでは平馬がすうすうと寝ていた。
今日は親に用事を言い使わされていて、4時にはここを出ないと間に合わないと言っていた彼だ。練習が終わるのは3時半、片付けて着替えて何かとばたばたしてればあっという間にタイムリミットになる。
大抵の場合は一緒に帰る自分達だけど、この日は千裕もそんな訳で監督に呼び出されていて。待たなくていいから先に帰んな、と去り際に笑って手を振れば、うん、と平馬も素直に頷いていた筈だった。
何時も一緒のもう一人、圭介の姿は勿論無い。今日は彼も横浜に行くのだと言っていた。だから二人揃って帰ったものだと千裕も思っていたのだけど、確かにそれは千裕の勝手な思いこみだった。平馬は相変わらず嫌に規則正しい寝息を、狭いロッカールームの中に落としている。
平馬が突っ伏している、古い長机の上には置時計が一つ。
見れば時計の針はほんの少しだけれど四時を通り越していて、千裕も段々焦ってくる。
猫っ毛だけど癖の無い、平馬の髪を一房摘めば、彼は小さく身動きした。平馬は寝起きが悪い。一度寝付いてしまったら早々に目を覚まさない事を知っている千裕は、溜息を自然に織り込んで、彼の髪を数度撫ぜた。


待っていて、くれたのかな。


わざわざ時計を真正面に置いて。後少し後少しと、指折り数える様に時計と扉の入り口を交互に睨みつけながら。一緒に帰った処で駅まで十分のバスの間しか同じ時間を共有しないというのに、それでも同じ時間を少しでも。
そんな事を言う訳無いのを千裕も知っているけれど、返事の無さを味方につけて。千裕は平馬をぼんやりと見つめた。
うつ伏せた腕の隙間から見える平馬の寝顔は穏やかで、時折ふんわりと笑う様がどんな夢を見ているのかと考えさせる。髪から指先へと千裕が触れる場所を変えると、その指先を平馬が掴む。一瞬起きたのかと思って顔を覗き込むものの、相変わらずの規則正しい寝息はタヌキなんかじゃ決して無かった。
簡単に振り払える、そんな拘束に千裕はあっさりと降参する。
起こさないといけないのは本当で、時計の電池を抜いてしまいたいなんて悪戯心は素直に蓋をした。判っていても、もう少しだけ。もう少しだけ、千裕はこのままでいようと思う。
千裕の住んでいる街で聞こえる、定期的なチャイムの音はここでは無くて。平馬をそれで起こす事が無くて、良かったと思った。
指先はまだ繋がれたまま。
時計の針はさっきよりもう少し、斜めに首をかしげている。









@こんなふうに、ひびをかさねて。


ひとりゆず祭り。アルバム制覇だ!といいつつもう全然駄目でした。がくり。











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