差し出されたプリントを受け取ろうとした、それだけだった。
さっくりなんて音さえしそうな、綺麗な切れ味。白い紙を少し染めた。赤。



「・・・ごめんな、ちー。痛いだろ」
「んー、別に。大した事ないし。指先だから血が変に出るだけだから」
しょぼんと小さくなっている平馬の頭に、いつもの調子でぽんと手を置いた。利き手じゃない左手はどこかそれでも不自然で、千裕も少ししまったと思う。
わざとじゃないんだから、気にしないでいいよ。
何度同じ事を言ったか、思い出すのは無駄な事だ。千裕も諦めて鞄に手を伸ばす。泣かれる前に血を止めてしまおう。そんな結論に至る頃には、もう口の中も鉄の味がした。


ばくり。
散らかった鞄の中、意外と出てこないバンドエイドに千裕も苛立ち始めた、そんなタイミングだった。
「・・・・・・・・・・・・へへへ平馬?」
「んー」
「こらっ、血もまだ出てるしっ、俺もさっきまで舐めてて汚いからっ、・・・・やめっ」
唐突に指を咥えられ、しかも離してもらえない。
平馬のそんな行動に千裕もどうしていいのか判らない。体温上昇、急激なアドレナリンの分泌に、いっそ気絶するかと思いもした。
好きな相手に咥えたまま上目遣いをされて。
平気でいろという方が、無茶だとは。確かに思うけれど。けれど。


「ちー、しみる?」
真夏にある、細長い凍ったジュース。そんなものでも食べるかの様に、普通の顔で千裕の指を吸っていた平馬がふと、そう訊ねる。
咥えたまま喋るな!と言いたいのをぐっとこらえて、千裕は首を横に振る。
平馬はよかったー、と何の邪気のない顔で、にぃっと笑った。
「もう鉄の味しないよ」
そこで初めて、ああ血を止めようとしてくれてたのかと気が付いた。
早まって背中に手を回して、勢い余って押し倒さないで本当に良かったと。思った。
何となくバツが悪く、平馬の顔を真っ直ぐに見れないので顔を逸らしながら、「ありがと」と千裕は言う。横目で見遣れば嬉しそうに平馬が笑っている。
久しぶりに自由になった右手の掌は、確かに血はもう止まっていた。
ふやけて皺になっている指先が、何だか妙に気恥ずかしい。


「・・・まずかっただろ」
口に出す言葉も見つからなく、困ったあげくに千裕はそんな事を、言う。
それは照れ隠しのようなもので。流してくれればと、そんな処が正直な思いだ。
けれど相手は流れも空気もまるで読めない、そんな横山平馬だ。
「別に」
にっこりという擬音がついてきそうな、そんな顔だった。



「ちーの味がした」



いっそ美味しかったと言われた方がまだマシだった。
項垂れた千裕の耳は、平馬が舐め取った血とまるで同じに染まり上がった、綺麗な赤。







@いっしょうやってろよろこんで。


とっぴんぱらりんのぷう。
色々駄目ポイントありすぎてつっこみきれない、それも計算ずく(嘘ですごめんなさい)









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