を捻って選抜練習を休んだ平馬に、何て言おうか随分悩んだ。
早く治せよ。
お大事にな。
そんな言葉なんて意地でも言いたくない、と思うのは、きっと千裕のエゴだった。



一年くらい前、千裕も酷い捻挫をした事がある。
今はもうしっかり治し、有り難い事にクセにもならずに済んだ訳だけど。それでも、あのメゲた時間は千裕の胸にしこりとして、残る。
「・・・・・・サッカー、か」
ぼんやりと呟きながら、千裕の目の前にあるのは家族共通の電話だ。時計を見れば早いもので、もう20分程立ち尽くしてる。まだ何を言おうか、考えていなかった。
今年の誕生日は、携帯を強請ってみよう。
子機さえ与えてもらっていない千裕は深い溜息めいた、深呼吸を一つつく。意を決して掴んだ受話器は意外と軽かった。慣れた番号を押し終える頃には、何故だかもう掌は汗を掻いていた。


サッカーをしばらく出来ない日々の中、千裕に掛けられる声は労りと憐憫と、励ましで。
背中を押されたのも本当だったけれど、頭の隅で引っ掛かったのも、また本当だった。
サッカー、やってなかったら。
そうしたら、皆は何て言ったのか。ほんの少し知りたくなった、それだけだった。



子供だった。そう、思うのだけど。思えるのだけど。



意外と繋がらない、呼び出し音を聞きながら千裕は平馬の事を考える。
意地っ張りで負けず嫌いの彼は、きっと今ごろ布団でも被って部屋に篭もっているのだろう。悔しい悔しいと。一人で。きっと、歯を剥いて。
平馬は千裕とは違うから、こんな事は恐らく考えもしないのだろうと思う。
それでも、ようやく繋がった留守電に吹き込む言葉は、在り来たりな慰めなんかじゃ嫌だった。



「おれ、千裕。」

平馬の携帯には、千裕の家の電話は登録されている。
他の面子のフルネームの中、一つだけぽつん、と浮いているのが面白かった。
伸ばす口調を真似したけれど、似てるかどうか。千裕には判らない。


「へーまが好きだよ」




サッカーしても、しなくても。
言葉の言い忘れは、シャープを押してから気がついた。

次に逢った時どんな顔しようか、悩み出したら止まらなかった。馬鹿だった。











馬鹿はきさまだと誰か罵ってほしい、今日この頃。
すいませんオフで出した背中合わせロマンスの序盤です。すいません元ネタはオリジナルの奴でした。
東海を書くときはいつも思う、ドラマティックに恋させたい。(大きなお世話)













SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送