圭介は俺たちの前だと須釜の話ばっかり、する。



その法則に平馬が気付いたのは随分前で、その時も確か選抜の練習後のロッカールームだったと思う。三人でこんな風に意味も無く一緒に居るのは何時もの事で、お菓子を持ち寄ってちょっとした宴会気分に浸るのも毎度の事だった。
そろそろ少なくなってきたお菓子の残骸達から緑の箱がちらり、平馬の視界に映った。掠め取ってみれば予想通りそれはビターが効いたポッキ―で、一本取り出して口に咥える。無闇矢鱈に音を立てた処で、鈍感な圭介には厭味なんて通じないのは判っているけど、せめてもの抵抗だ。
圭介の話は続いている。
満面の笑顔ではなく、どこか照れ臭そうなでも自慢げな、そんな顔はそのままだ。
勢い込んで食べてしまえば、随分と机に食べカスが落ちた。


圭介が須釜のことを気に入ってるのくらい、見れば判る。
全国レベルの実力を持つ大型ボランチ、守備の要、ユース同士の対戦でも何度も顔を合わせているし話だって、する。
三人で居るのに気付けば須釜が入ってきて、するりと圭介を攫っていくのも、もう慣れたもの。
ちらり、正面の顔に目をやればJリーグチップスのカードを開けている圭介の真剣なその。
青いユニホーム、波戸だったと笑顔でご報告。須釜に今度送ってやろう、そんな声もおまけで付いてきた。


うすしお味よりコンソメの方が好きだ。
そんな不満は食べてる内に消えてって、袋に進む手や弾む会話は終わりを知らない。
前は名前を聞くだけで嫌な顔をしていた平馬も、横浜の話題にも普通に頷ける様になった。隣に座る千裕の指が掴んだ、一番大きいポテトを横から掻っ攫って、圭介と一緒に笑い合う。そんな程度には。
同じ年なのにお兄さんのような、落ち着いた性格の千裕は苦笑して破片をぱくり、口に咥えた。
平馬はごめんごめんと、笑いながら半分に割って千裕の口に押し付けた。




誰でもいいって訳じゃないんだよな。
千裕がぼそっと、呟いたのは夕暮れ時のロッカールーム。
負け試合、何時の間にか圭介は姿を消して、二人でタオルを被って、俯いていた。
慰めも、共有も、好きな奴だからしたいんだよな。




きっと千裕はもう覚えていないのだと思う。
赤くなった顔をけらけらと指さして笑いながら、平馬はそれでもいいやと軽く流した。例えば圭介が自分達に嬉しそうに須釜の話をする事、負け試合の後背中合わせで二人で過ごした時間。胸の中にあるそんな色々な自惚れを、いちいち気にしてたら切りが無かった。
そろそろ帰るか、と言ったのはやっぱり千裕で、その声に背中を押されて外を見れば早いものでもう夕暮れも過ぎている。
暗い窓に丁度納まった、三日月猫の目が三人を見ていた。


後片付けすら楽しそうに、笑い合う三人を、目を細めて、月が見ていた。







@眼を細めて、笑ってた。


荒野さんに捧げ逃げたんだ。
スガケーも好きなんですよ。

















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