山口圭介にとって世界とはそう遠い物ではない。



(自慢じゃないけどそれなりにプライドも自信も、・・・自覚もあるって)
少し前にしたジュビロユース内のインタビューをうっすらと思い出しながら、圭介は心の中で一人付く。
あの時は随分と(あくまで自分なりだけど)謙虚にマイクに向かって口を開いて。何時もいっぱいいっぱいです、これでも。もっと上手い人も凄い人も幾らでも居る。自分なんて。だから、何時でも精一杯の自分で頑張ってます。猫被ったそれがちらっと乗った雑誌の発売日、平馬からの電話の第一声はとんでもない笑い声だったのを、覚えてる。
ちらり。
こそっと、横目をやれば平馬が何やらメニュー表を手に持つ千裕にしがみ付いていた。重い重い、と言われてもまるで平馬は気にせず、余計に体重を掛けてやったり。
その内ずるずるなんて擬音が聞こえてくるだろうな、なんて思って視線を戻した。
うっすら赤に染まってた、千裕の耳は見なかった事にしてやった。


(自覚もあるよ)


近い未来、それは夢でなく未来。将来。
青いユニホームに身を包む自分の姿が簡単に浮かんだ。全国各地から集まる、でも何処かしらで皆顔を合わせている仲間と円陣を組み、芝を踏む。そんな日の事。
思い馳せればキリが無い。けれど思う。何時か来るそんな日。


「圭介、お前も笑ってないでどうにかしろって!おーもーいー!」
「だったら俺の嫌いなそのフォーメーション無くせっつの!大体何でけーじゃなくて俺が指令塔なの!勿体無いって何時も言ってんじゃんっ、ったく」
「・・・エスパレスユース10番がどの面下げて言ってんの。後、そゆ事は監督に言えって何時も俺も言ってるよな?」
「うっさい」
「・・・・・・・・・はいはい」
千裕に言われて初めて気がついた、自然浮かんでしまってた笑顔。
自分の中の想像をぶんぶんと首を振って振り払い、目の前のじゃれ合いの中に身体ごと飛び込んだ。ぐえ、なんて蛙でも潰したかのような呻きとギャー重!けーの豚!なんて大変に失礼な言葉。耳にして、足を浮かし全体重を掛けてやる。あいたたたた、なんて二人分の泣き事、素知らぬ顔でさらりとだ。

風がふ、と髪を撫ぜた。
微かな笑い声が圭介の耳にそのまま運ばれ、顔を僅かに上げれば少し離れた場所で須釜が笑っていた。相変わらず二人の背に支えてもらった格好のまま手を振れば、すぅ、と手を挙げて返してくれる。
その奥にはU14の真田達の姿も見える。どうせまた馬鹿やってるよとか言われてるのかもしれない。お互い様だと、今度言ってやろう。そう決めた。
見慣れた顔に初めて見る顔。それでも確かにある共通項目。サッカー。
けれど何時か見る、ブラウン管に映る姿はたった11人だという現実。
自覚は、あった。



「・・・さー、今日は勝つぞ!」
「何っ、急にやる気になってんだってば、コラっ、けー!重い!どけっ!」
「平馬も頼むから暴れんなっ、落ちるからっ、・・・須釜っ、笑って見てないで圭介どうにかしろオイ―――っ!」
三人三様の大声も、全て全て平等に。頭上に広がる青い空へと吸い込まれていった。
圭介が思い描いてた空と同じ、そして何時か確かに開かれる、数年後のW杯へと続いているその青。ユニホームの。


自慢じゃないけど夢など見た事は無い。
自分の足と閃き、それだけに全てを掛ける。後は小さな神望み、そんな程度。


「―――ついてきてよ」
小さな呟き、二人分のクエスチョン。何か言った?そんな首傾げには素知らぬ顔。
俯いたのは一瞬だけ、後は持ち前の明るさと強気強気で。


「勝とうな、今日。東北にも関東にも九州にも、全部全部」
「・・・・・わぁ強気。ま、何時も通りやりゃいけるだろうけどね確かに」
「平馬が一番負けず嫌いなんだよな、実は。・・・お互い様ではあるけど」

声を揃えて、にぃ、と笑って。



「勝とう」



それだけのその一言を、ずっとずっと言っていたいと思うんだ。

三人でさ。









@いっしょにいることが、全てだなんていうわけない。


フィールドに立てるのは11人で。それぞれの特性も特徴もわかってる、わかってる。
でもただ、望むだけ。











SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送