今日はずっと曇り空で、愚図ついて色を変えてきた雲に恐れを感じて早々に練習を切り上げた。
 お陰で早い時間、夕食前に家に辿りつく事が出来、こうして居間で一人ごろんと身体を伸ばす事が出来た。滅多に出来ない、贅沢を千裕は噛み締める様に味わってみる。眠ってしまいそうだった。
 ユースの練習はハードで、初冬の今頃なんて日が沈んだ後だって練習は続く。家路に着く暗い道のりだって友達と一緒なら楽しいものだ。くたくたで、家に着く頃には冷え切っている身体をどすんと風呂に放り込むのも気持ちいい。だから不満なんて無いんだけれど、それでも、たまにはこういうのもいい。確か怠惰とか言うんだった。ぼんやりと考えると、欠伸が出た。
 この間買って来たのはいいけど、封も切れてなかった新譜のCDを掛けて、コタツに寝転ぶ。台所から零れてくる匂いは多分カレーだ。玉ねぎをじっくり炒めてじっくり煮込む、母特製のそれは千裕の好物だ。途端現金に主張し始める自分の腹に一人で笑って、蜜柑でも食べようかなとぼんやりと思ったりもした。

 やる事もある。宿題もある。でもたまにはこんなのもいいなと目を瞑ると、遠くで雨の染み込む音がした。

 とうとう降り出してきちゃったか。
 コンビニの有線で気に入って買って来た新譜は明るい曲調の恋のうた。その合間合間に聞こえる雨音はまだまだ弱弱しくて、意識しなければすぐに聞こえなくなる程度の主張しか、しない。
 コタツの暖かさは丁度いい。潜り込んで、すっかり丸まってしまった身体を少しだけ伸ばしてやるとバキボキなんて音がしたのが可笑しかった。カレーの匂いは相変わらず千裕の鼻をしっかりと擽ってくれる。
 染み込む、とは良く言ったものだと思う。
 気づけばむくりと身体を起こし、CDを止めていた。馬鹿みたいだと思いながらも、コタツのコンセントも引っこ抜く。後はカタコト、なんて鍋の音くらいだけれども、これは味に関わる問題なので、置いておく。

 降り出したばかりの雨音は優しい。
 目を瞑ってそれだけを聞く。たまにはこんなのもいい。西から来た一瞬の夕立の声に、耳を傾けるのも、たまにはいい。



 彼が住む街からやってきたおとをきく。それもひとつの恋のうただと、思いついたのが最後の千裕の記憶だった。
 目覚めは酷く良くて、カレーもとても、美味かった。




@君が感じたもの、僕が今から感じるもの

ちーへーお題「地域差」より。
少しでも離れている、でもだからこそ思うこともある。









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