「ん、判った。気にすんな、しょうがないもん。お大事に」
「…電話なんかしてて平気なの、か?ほらっ、咳き込んでる。もう寝ろよ。…うん、ホント気にしないでいいってば。約束なんて、いつだっていいんだ」
「会えないのはやだけど、千裕が苦しそうなのは、もっと。…嫌だよ」



切った携帯はそのままポケットに仕舞い込む。そうして出かける準備をしていた鞄を横へと放り投げて、平馬はコタツへとすっかり潜り込んでしまう事に決めた。気にしていた電車の時間ももう関係ない。たまの休日、ゆっくり身体を休められてラッキー。そう思い込むのは決して、言い聞かせなんかでは無いといい。
木枯らしとまではいかないけれど、それなりに外は風がある様だった。明るい空からは惜しみない日差しを部屋へと差し込んで、程よい暖かさに包まれている。寒い訳じゃないけど、弱に合わせたコタツはうたた寝を呼び込んで、気持ちいいまどろみへと連れて行く。寝返り一つ、体勢を替える。ポケットに入れたままの携帯がごつごつして痛かった。取り出して再び掌にすっぽり収まった冷たい感触は、もう誰の声も伝えてくれなかった。

折角の休みを怠惰に過ごすのも一つの贅沢だ。

ごろり、また寝返りを打って平馬はぼんやり天井を見る。年季の入った木目なんてそういえばよくよく見た事も無かったなと思って、見遣ってみれば意外と面白い事にも気が付いた。波打つ線の連なりは見様によって表情を変える。そういえば昔、彼の家に泊まって揃って眺めた事があった。人の顔が迫ってくるようで、怖くて少し泣いた。手を繋いで寄り添った。気づいたら眠っていて、明るい朝の日差しの中で見ればまるで何でもないもので、おかしくて、二人。笑った。

贅沢な時間。寛いで。でも想像なんかじゃなく、側に居たら、いいと思う。

掛けもしないし掛かっても来ない。握り締めていた携帯は、何時しか随分熱を持っていた。
何時までもだらだらと寝転んでいる理由を、平馬も本当は知っている。出掛ける格好のままコタツに収まったきり着替えずにいるのも、伸ばせば手が届く場所に鞄が何時までもあったりするのも。気づけば思考の隅に必ず居る、直結している彼の存在の大きさも。
寝返りをごろんと打って、その勢いで押した通話ボタン。リダイヤルの画面は、本当はずっと前からそのままだったんだ。



「気にしないでいいから。…千裕が苦しそうなのは嫌だけど、何にも出来ないのも嫌なんだ」
嫌にぶった相槌に応える元気も無いくせに、それでも笑い声を聞かせた理由を、ただ聞きにいきたいだけなんだ。
ねぇ。




@いきおいそこねてばっかりで、でも許してね。

いや、今日急に仕事が休みになってぽっかり穴が開いてぼんやりしてたので。
ちーへー30のお題より、12:ねぇ。配布先→410歩のマーチ





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