遊びの予定があるというのにあっさり母親から買いものの荷物持ちを命じられて、しぶしぶ父の車に乗り込んだ。
友達来るんだけど、と僅かばかりの口答えも、お見通しの母親には通じない。来たら上げておくわよの返答と、ついでにお菓子でも買ってらっしゃい、のお許しを頂けば千裕も言葉は出なかった。それにしても久しぶりね平馬くん。何処までもお見通しな母親は、彼の好きなスイートポテトを作っているから手が離せないのだ、そうだ。



ホームセンターで目的のストーブを買って(この所冷え込んだのに急に壊れて物入りになったのだ)、コンビニに途中寄って貰って、後は真直ぐに帰って来たからまだ予定の時間まで余裕があった。
お昼前にはお邪魔するな!そう言って切れた昨日の電話。今頃は駅前かなと、車についている時計を見ながら千裕はぼんやりと考える。今は道路工事で少し引っかかってはいるけれど、十分もしないで自分達は家に着くだろう。いらっしゃい、といつも通りに彼を迎え入れられそうで、良かったと思った。
小さな渋滞はまだ終わらずに、手持ち無沙汰に千裕は外を見る。青い空の下、丁度駅に電車が着いたのだろうか、少し離れた駅の方角から人の小さな波が流れてきていた。色んな顔がある。制服もスーツも、老いも若いも。普段は自分も混ざっている、それは他人の塊り達だ。


漸く動いた車と同じくらいの勢いで、駆けている姿に目が入ったのはだから、偶然だった。


「…へいま」
色の変わった信号ももどかしそうに、その場で駆け足までしているのは間違いの無い自分の親友のその姿。
千裕の家まで歩いて軽く15分は掛かるものの、正午まではまだ余裕もある。焦る必要なんて、息せき切って走る必要なんてまるで無い。車はゆっくりと動き始めて、平馬から離れるものの、丁度目の前で赤へと変わった。追ってすぐ、横断歩道に人が溢れた。すり抜ける様に、彼は駆けて行った。その嬉しそうな、横顔。



あの気持ちは覚えがある。君の家に着くまで、ずっと走っていく、背を押すもの。



信号が変わるのが随分と早く感じて、遮るものの無い道路を走る車はあっさりと駆ける平馬を抜いていった。当然だけど彼は気づかない。気づかなくて良かった。まだ自分には、彼の欲しいものをあげられないから。
家に着いてストーブを置いて、買ってきたお菓子と出来立ての彼の好物、スイートポテトを部屋に並べて。そうしてチャイムが鳴ったら、千裕は出迎えるのだ。多分自惚れじゃない、荒れた息と額の汗に応えるにはそれだけでいい。自分もそうだったから。だから、ただ笑って出迎える。そう決めた。
どうした随分嬉しそうだな。
運転しながらそう呟いた父親に、笑ったのは悪いけど多分それも練習だった。








@いらっしゃいより、いっそおかえり。


いっそ家族になってしまえと言ってやりたい。
勢いで書いた割にはよしであります。










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