浴室へと入ってからしばらく何の物音もしないから、もしかしたら倒れてるんじゃないかと千裕も心配になったが、様子を見ようと足を踏み出した瞬間シャワーの音も聞こえて、安堵したのは心底だった。
息を付く代わりに千裕は広いベットへと身を投げ出す。関節のギシギシとした不自然な痛みに、自分も随分緊張していたのだなとぼんやりと思った。
まだ平馬のぬくもりも残る、広いダブルベット。
彼より先に目が覚めて、そうして平馬の寝顔を眺めていた時間はほんの少しだった。
散々涙を流させて、少し腫れぼったかった頬と汗で髪が張り付いた額。何度も唇を這わして、白い肌に浮かんだ数え切れない赤い跡。
情交の証はそこら中に溢れていて、目のやり場に困って早々に千裕も浴室へと走ったものだ。今の平馬と同じ様にシャワーを浴びて、ようやく冷ました頭の熱。背中に付けられた爪痕も、そういえば染みて初めて気付いたものだったけど。



今ごろ、残しすぎた跡に気付いて怒っているかもな。



噛み付く様に、食む様に。目の前に差し出された肢体を千裕は貪った。
優しくなんてしようと思ってたのは本当だったけど、実際多分、酷いことをしたのだろう。した本人すら身体のあちこちが痛いのだから、された平馬の調子は相当だ。さっきふらついていた身体はやたら軽くて力が入ってない様にも見えた。反射で触れた腕は熱を持っていて、それは昨日の、差し出された腕に良く似ていた。
「・・・冷やした意味、無かったな」
空になったミネラルウォーターのペットボトルをゴミ箱に投げ込み、千裕は起き上がって家捜しをする。小さな冷蔵庫の上にはインスタントの珈琲とポットが置いてある。こればっかしはコインを入れる処がないから、きっと付属のサービスなのだろう。
砂糖とミルクのたっぷり加減を確かめて、千裕は珈琲の瓶に手を取った。飲めれば何でもいいと思ったそれだけで、目分量にプラスチックのカップへと安っぽい粒を注ぐ。
ザラザラなんて音と少し篭もった水の流れる音。
鼻を利かした処で感じるのはマキシムなんてブレンド名でもないそれだけど、千裕が思うのは珈琲の嫌いな彼のこと。
ボールを追う時の、鋭さを持った目が潤んで何度も千裕を呼んだ。口下手で人見知りだから、気を許した相手以外、ろくに喋りもしない口。耳朶や首筋、太股の裏側。唇でなぞればあんなにも艶やかに声を上げ、小さな子供の様に身体を震わすなんて、知らなかった。
髪を掴んで首に腕を絡めて、背に躊躇いなく爪を立てた。平馬。可愛かった。そう、今でも素直に頷いてしまう。
気付けばカップの中の茶色い粒達は随分な量になっていて、そんな自分に呆れながらも用意していたもう一つのカップに移し換える事にした。
浴室に入ってから20分、いい加減逆上せた顔で平馬も出てくる頃だろう。
珈琲嫌いな彼の分は横に砂糖とミルクをたっぷり添えて置く。自分はそのままブラックで、一足先にお湯を注いで、一口もらう。きっと他の場所で飲んだらそう感じないだろうけれど、美味しく飲めたインスタント。理由は千裕も、ぼんやりと判っている。
珈琲を本当に嫌う彼の事だから、差し出せば多分怒り出すだろう。ミルクと砂糖がいくらあっても結果は同じで、飲みながらも結局はぷりぷりと怒るのだ。
平馬が怒って、千裕が宥める。そんないつも通りの空気を想像すれば、千裕の胸は自然と撫で下りた。シャワーの音が止まったのを聞き止めて、ポットからお湯を注いで茶色い液体を作りながら、でも少し勿体無いかもなあとほんの少しまだ蕩けた頭でぼんやりと思った。






@のぼせっぱなし。


ラブホにポットがあるのかは知りません・・・ごめんなさい。
眼が覚めて、顔をあわせて、どうしていいのかわかんなくなるのって可愛くありませんか。何だか。









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送