ぴんぽんぴんぽーんぴんぽんぴーん。



何時までも続く残暑に耐えられず、黙々と一人、畳に寝そべっていた午前中。
あまりの暑さに思わず起きた以来、それこそ最初の一時間は時計の針を睨んだりしていたのだが、長針が黙々とでも確かに進んでいくにつれて強まってくる蝉の声とじりじりと伝わってくる熱だった。
その内諦めて、熱風を掻き回すだけの扇風機も止めて。ごろんと見上げる天井、その木目。じとり、と葦に染み込む自分の汗や全開の窓に揺れる電気の紐のゆらめき、そんな他愛も無いものを強く、敏感に感じたものだ。

あぁそういえば子供の頃、天井を向いて寝るのが怖かったっけ。
中学生にしてはがっしりとした身体をごろり、と横にする。天井の木目が人の顔に見えて、布団を被ってガタガタ震えていた。夏の暑い日。そう、今日みたいな。
畳に染み込む汗はベタベタして気持ち悪くて、いかにもうんざりという感情。
それでもあの時本気で抱いた恐怖、抱いてた本気の想い。それに比べたら酷く気持ちの良いものだと思う。
もう八月も終わりに近いというのに、しぶとい蝉共の大合唱。
小田千裕はまたごろり、と体勢を変えて。
重苦しいのは重苦しい、残暑の熱気を一人噛み締めて黙々と、寝ていた。



冒頭のチャイム音、酷く遠くに聞こえた。



うとうとと子供の頃の事を思い出していた。もしかしたら、夢だったのかも。だけれど。
初めて東海選抜に召集された時。
同じユース仲間で、けれど自分の遥か上を行く全国のサッカー小僧の憧れの的の友人、山口圭介。
追いついてやったぜと、虚勢を張ればぬかせ、と笑い掛けられて。すとん、と抜けた肩。二人で笑いあった。
暑い日差しの中、走った。その内増えた、隣にいる人間。
違うユース、しかも下手すれば変な敵対心すら有り得るエスパレスの10番。でも自然と馬が合って。一緒に居るのが当たり前になった、横山平馬。
夏の暑さ、家に遊びに来て食べたスイカ。縁側から種を飛ばして、生えたらいいねと小さな企み。
打ち上げ花火が不発して、隣ん家に怒鳴られた時も三人で逃げた。その後にやった線香花火、物足りなかったけど綺麗なのは確かで。
明日も晴れたら川に行こう。釣り竿と水着持って、思い切り遊ぼう。ガリガリ君でも買って。
三人で。


・・・さんにんで。
思い出される記憶、酷く昔の事の様。
そんなに長い間一緒に居た訳では勿論無いのに、何だかくすぐったさが溢れて。泊まりに来た時、三人で雑魚寝したのもそう言えばこの部屋だった。頭の上の人の顔、三人で毛布を被って。それから、くすり。笑った。



「―――・・・幸せそーに、眠ってるね。ちーちゃん」
「・・・汗ダラダラ掻いてるけど。あー・・・畳の跡ついてる」
夢の中の圭介と平馬、けーとへーが笑って何かを言っていた。話が一人見えない事に少しばかしむっとしたけれど、すぐに気分を変えて。行こう、と笑いかけた。そうすると二人は。
二人は。
「ちー、疲れてんのかな」
「や、暇なんじゃん。ただ。・・・電話すりゃ良かったな、やっぱ」
「ね」
ごめんなさいね、なんて母親の声が頭の上から。連絡しなかった俺らが悪いんですから。なんて猫を被った彼等二人が面白くて、くすくすくす。重ねて笑う。汗が滴る。
「取りあえず渡したかったのはコレだから。目が覚めたら、コレ」
「渡しておいてもらえます、か」
目が覚めたら彼等に電話してみようか。思った瞬間、頬にぺたりとした感触。汗が少し、ほんの少し、吸い取られた。
声が遠ざかる。じゃあなんて、言葉、もう一度思った。夢の中。電話しよう。

そして残り少ない夏休み、また一緒に布団かぶろう。そう。言おうって。




畳の跡の付いたその頬に貼り付けられた二枚の残暑見舞い、それは消印無し。
友人達からのその届物に、千裕が気付くのは夕焼け前の。暑さも漸く通り過ぎた、そんな時間だ。


お前等の夢を見たよ。
そう言った途端、受話器越しに二人揃って大笑いされたのも、それから30分程過ぎた後、もう夕焼けは沈みきってしまいそうな頃だった。







@ゆめもうつつも。


暑中見舞い企画、東海選抜編。ちーへーけー。
三人揃ってばたばたしているのが大変好きでございます。にこにこ。








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