たつみ、とたくみ。
 あの時本当はどっちが呼ばれたのかなんて結局確かめてなんかいない。
 一つの名前で二人揃って振り向いて、隣同士、見合わせた顔が出した声は綺麗に揃っていた。

 なんていうの。
 名前。

 聞いてみたら全然似ていなくて可笑しくて笑った。二人で笑った。それが多分、僕等のファーストコンタクト。




「あ、良平」
 流れを逆に掛けられる声。顔を上げれば、移動教室の帰りなのだろう笠井が縦笛を振り回しながら手を振っていた。
 隣のクラスというのは不思議とこんな風な擦れ違いが多いから、教室でよりこんな風な廊下で顔を合わせる事が多い。
「あーもう音楽鑑賞させるんだったら縦笛とか持ってかせないでほしい!」
 眠気をどうにか追い払う為だろう、目の前に来ても笠井はぷんすかと縦笛を回している。
 それはまるでチアガールか何かの棒回しにも似ていて、どうにも噴出しそうにもなったのだけど、口元を押させる事でどうにか堪えた。
 笑ったが最後、この意外と堪忍袋の尾が短い友人の本日のお怒りは全部自分の所為になってしまう。
大人しいとか礼儀正しいとか、上からは色々と柔らかい印象を抱かれている笠井竹巳。その実大きな猫を背中に飼っている、その事実はあまり知られてない。
「そっか、じゃあ俺達も要らないかな笛。忘れたからって焦って借りに走るんじゃなかった」
「…どうせ廊下で会うんだから俺に借りればいいのに。良平、変な処で気遣い」
「や、笠井は最後の保険だから。…代わりに今日、俺委員会が放課後あっから部活遅刻するって言っといてもらえると、助かる」
 顔の真ん中で両手を合わせて拝み倒せば、笠井はあははと笑ってオッケーをくれた。
 助かる、なんて改めて言うのは無しが決まりだった。お互い様な気遣い屋。何でも無い事を少しでも減らそうと、約束したのは自然だった。
「今日の練習も暑そうだー。ばてるー」
「笠井、暑いの嫌いだからなぁ。って俺もだけど。走るのだるいなぁ」
「あっはは、FWは大変だー、駆け上がれ良平!」
 友達は名字呼び。
 それは笠井の基本であって、同室の藤代だって例外じゃなくて。勿論上の先輩相手なら尚更だから、辰巳にだけのそんな態度はたまにからかいの対象にだってなる。

 たくみとたつみ。

 似てて呼びにくいから、なんてそれは変な理由なんだろう。
 それでも初めて会ってお互いの顔を見合って笑い転げて以来に定着したその形を、親しさの証明だって受け止めている。たつみ、と呼ばれてもう振り返る事は無くなっても。続いている、その気安さ。


「たくみ」


 だから。
 色の違う一つ上の彼からの呼びかけに、振り返るのは辰巳の勝手な意地だった。









@ほしいのは、そんな程度のものじゃない。


辰巳二年生でお送りしております。きもい!(オブラートって言葉を知ってますか)
「でも片思いなんですね!」と爽やかにつっこまれたのは忘れられません。…基本ですから!(違ったらみんなびっくりするくせに!)
何かあからさまに長くなりそうだったのでこの辺で止めときました…プロローグっぽいけど続きはありません。









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