嫌いな人の名前を挙げて下さい。



シャーペンを机に置いて、笠井は小さく息を吐く。
かったるいだけのLHRは後10分程、進みが遅い時計を苛々と睨みつけ。そのまますぅ、と視線を遠くにやってみた。
席変えしたばかりの笠井の現在のポジションは廊下側一番後ろ。
寒い寒いと最初は酷く不満を口にしてたが、慣れると結構快適なものだ。遊びにくる友人達にも好評だったりもした。
椅子をぎぃ、と鳴らして重心を上手く後ろに傾けて。見れば丁度渡り廊下を移動している集団、見慣れた顔も一つ、二つ。
一人だけ頭が飛び出てる彼を捉えて、居心地悪い気分で目の前の紙に意識を戻した。


回りくどい言い方をしてるけど、つまりはやっぱりそういう事。
学校生活に関してのアンケート?一番最後に何気無い振りして乗っていた。


ぱき。
もう何度目かの折れる音、やっぱり100均はやわいなぁ、なんて人の所為。
苛つきの意味は自覚済み。
そう、自覚済み。


親友の名前を挙げて下さい。親友って普通一人だけじゃないの?あいつはきっと気楽に何の疑い無しに書いてるんだろうなぁ。確かにこっちも疑い無しだけど。藤代誠二。まる。
尊敬してる人の名前を以下略。中学男子にそんな事聞かれても。リザラスとかやっぱり、書いちゃ駄目かな。うん。
埋まっていく空欄、分類するなら好意に値する、一緒に居ればふんわり笑ってしまう人達、大好きな人たち。
そんな中、一つだけ。
こんな事知ってどうすんだ。他人の悪意なんてそんな興味本位、悪趣味以外何でもなくない?
ぱき。カチカチ。折れる、音。



例えばの話はあまり、好きじゃない。
それでも思う時、そんな時は酷くあの人に会いたくなる。
女の子でも可愛くなくても幻想でも綺麗でもなくとも、お前はお前と。

言ってくれるのは、三上先輩だけでいい。



唐突に響いたチャイム、後ろから集めて、なんて教師の声。ぎこちない笑みを浮かべて、気だるげに立ち上がってクラスメイトの差し出すそれを一つひとつ。担任に手渡せば、彼はそそくさと去っていく。終わりの挨拶の代わりの歓声、今日も一日お疲れ様。そんな。
さっそく寄って来てその内容を喋り倒す藤代に、うんうんと頷きながら、頭に過ぎったのは。その途中気付いた、机の上のシャーペン芯の山。少し、笑った。


好きとか嫌いとかそんな事ではないのは重々承知。




嫌いな人の名前を挙げて下さい。
辰巳先輩。
だから俺のことを、嫌って下さい。








@だって、これしか返せない。


返せない気持ちも、向けられるだけの思いも、時には重さがあるから。










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