辰巳良平。
一軍FWどんな高い要求のパスもその高い打点で確かに相手ゴールに叩き込む長身の。
けれど知りたい事はそんな記録上の事じゃない。


「・・・辰巳・・・か・・・・・・」
「―――・・・先輩が、どうかしましたか?」
ぼそり、と微かに呟いた他愛の無さのそんなものも、確かに隣のこの理解者は反応してくれる。それは本当に無意識の、何時もの事とも言えるようなそれで。
言葉に含まれた本気の感を自然と汲み取る天然の。
だから無駄な気遣いなんて、二人の時は霧散する。
「んー・・・ちょっとな」
「良い先輩ですよね。俺等後輩の事、すっごく気遣ってくれて・・・ちょっと困ってると、何か傍に居てくれるんですよ?」
「・・・・・・へー・・・・・・」
「優しいし格好良いし背も高くて。あの藤代と2トップ組むなんて並大抵の人じゃ出来ませんよねー」
「随分持ち上げるじゃねえか。珍しい」
何処となくふて腐れた顔をするので、そんな三上を見て笠井は苦笑を噛み殺す。
「そりゃそうですよ」
にぃー、と淀みない笑顔。
「俺、辰巳先輩の事大好きですもん」
「あっそ」
「・・・・・・つっまんない、返事」
今度は笠井がぷう、と頬を膨らませて。
三上はそっぽ向きながらつまらなそうに頭を掻いた。
「つーかさあ」
滑らかな笠井の肌にそれから三上は手をやって。
包み込む様に抱きしめる。
「こーやってん時にそんな事でヤキモチ焼くのも馬鹿じゃねえ?」
屈託無く三上は笑う。
それを見て、漸く笠井も彼らしい穏やかな心底のそれを。
ぎゅう、と自分から三上の背に手を回し、シーツ一枚が遮る三上との距離を少しでも、と近づけた。
シングルに二人眠りながら、ぽつりぽつり、と漏れる言葉。
静かな夜。
「・・・辰巳の奴」
控えめに静かに、三上は言う。
「優しいよな」
「・・・はい」
「―――あんな風に・・・なりたいって、思うんだ。俺だって」
何処か虚ろに空を眺めながら思う。
三上が知っている、辰巳が背負っている彼の事情。
それはとても自分と酷似していて、全てとは言い難いがその殆どは理解出来る。
大人の事情。
そんな一言に振り回された結果に彼のあの穏やかな性格は例えば存在するとしたら。もしそうなら、そんな所だけは自分自身と随分違うものだ、と思う。
ふと、笠井を抱く腕の力を少しだけ強める。
「・・・三上先輩?」
心配げな声。
だから敢えて顔だけは見ずに。
「・・・痛かったか?」
「いえ・・・どうしたのかなって・・・・・・」
「―――悪いな・・・」
腕越しに伝わる暖かさ。
もう手放せないそれ。
「・・・俺の事、好き?」
「―――・・・突然ですね・・・・・・」
「なあ、教えて?」
ぐっ、と詰まらせながら、それでも何とか振り絞って。
軽い虚勢に包まれた本気の懇願に必ず応えてくれるのがこいつの優しさ。
救われる。
「好きですよ」
「本当に?」
「ええ。自分よりも」
真っ直ぐな目を見て何時も何時も笠井が想う事。
この人の事。
そう、迷う事無く言える、自分よりもきっと。
「―――・・大好き」
その声をその想いを、噛み締めながら三上は考える。
・・・辰巳の様になりたいと。ずっとずっと思ってた。
もっともっとずっとマシな、心の深淵なんかに囚われない、素直に好きなんて言葉を吐いてやれるような、そんな。
笠井の為に、そうありたい、と。
「・・・・・・俺も」
今この手にこの腕の中に、笠井がいるから。
彼のお陰で少しはマシな人間になれた、けれども。
けれど。
けれどあの、自分ととても酷似しているあの彼は?
「・・・三上先輩?」
「―――ああ」
心配げに見上げてくる笠井をぎゅう、と優しく抱きしめて。
「ごめんな」
「・・・いえ・・・」
「・・・・・・・・・・・・ごめん・・・」
手放せない、と。
思う心が三上にただただ言葉を紡がせる。
そんな中、笠井はすぅっ、と三上の頬に手をやって、満面の笑顔でにっこりと。
「三上先輩」
「・・・ん?」
「―――俺ね・・・辰巳先輩・・・好きですよ」
思う事があったけれど、それでもうん、と頷いて続きを待った。
笠井は嬉しそうにまた微笑んで。
「・・・あの人の事・・・護ってあげたいと思うんです・・・何時も何時も・・・・・・」
垣間見える不安定さ。
それは確かに三上と全く同様の。
だから。
「―――でも俺は・・・・一人しか抱えられないから・・・」
背に回す手に力を込める。
自分は神様なんかじゃないから。
この腕が掴めるものなんて、限られている事ぐらい、知っている。
笠井はもう一度真っ直ぐと三上を見る。
「・・・辰巳先輩に」
「・・・・・・・・・ああ」
「・・・幸せに・・・なってほしいんです・・・・・・」
「うん・・・」
静かな夜だ。
他に誰もまるで居ない様な、そんな空気。
そんな中。
あの人は。
「・・・・笠井」
「―――三上先輩」
お互いに顔を見合わせてから、それからきつく、抱きしめ合って。
「・・・幸せに、なりましょうね?」
「ああ・・・絶対にな?」
目を瞑る。そして知らず、近づいて。
他愛も無さ、祈りなんて言葉も当て嵌まらないけれど。
それでも今はそう願う。


願わくば幸せな夢をあの人に。









辰巳と三上は同種のにんげん。
だからこそじゃないけど笠井のようなにんげんに憧れて。
ただそれだけだから、きっと、だれも。わるくない。










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