同じ動作を黙々と繰り返すなんて、それこそ根岸の苦手ゾーンにクリーンヒットだ。
俺の将来設計にはレレレのおじさんコースは無いんだよぉ、と泣き言を言ったら、中西は分厚い帳簿の角で頭をごん、と殴ってきた。痛い。
しょうがないだろう、と言いながら、中西が溜息ついたのは見ないでも判る。
こんな大事な仕事、お前くらいにしか頼めないんだから。
涙目で、さわるとじんじん頭は痛くて、そんな中だから多分聞き間違いやら思い込みやら混ざっているだろうと思ったけど。
どうにか保とうと頑張ってんのにひくひくと口端が揺れる、ふくれきれない顔をもごもごしながら、ホウキを受け取ってみたのだった。
玄関前のホウキ掛けは、それでも始めてみると面白かった。
ゴミは葉っぱや木の枝などの自然物ばかりで、何とか明媚を売りにしている辰巳屋周辺には観光客が落としていくゴミはそう無いから、やっていて不快になることもそうはないし。
掃いているうちに色々観察するようになって、改めて気づく事も結構多い。
葉っぱはいろいろな形があること。光の加減で木々の緑が色変わりすること。
駐車場周辺に撒かれた小石は、この土地のものじゃなくホームセンターから買ってきたものだということ。(これは庭師のおじちゃんに聞いた。見た目と粒の揃いがいいんだとか)
「あの、すいませーん」
「ああ、はい。なんですか?」
「ちょっとぉ、このお店に行きたいんですけど、入り口がわからなくってぇ」
後、こうして入り口でぼんやり掃除をしている人間は、声が掛けられやすいということ。
おんなのこ三人組に花を飛ばされながら聞かれたのは、地元っこには名高い、最近どこそこかの雑誌に紹介されたという甘味屋だった。
確かには店に続く小道は最近出来たばかりのホテルに挟まれていて、薄暗い感じが二の足を踏ませるものがある。
旅行用の大きな荷物があるから身動きも取りにくいのだろう。行こうかと思ったけど止めたのだという、彼女らが指した道を、指でなぞりながら合ってるよ、と笑ってやった。
「俺もよく行くんだそこ。ちょっと店、狭いのが難点だけど」
「えっ、じゃあ入れないですかね…?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、あのねーさんは女の子に超やさしいから。客追い出してでも入れてくれるよ。……それより、君らの荷物、先にホテルなり何なりに預けた方がいいと思うけど。チェックインの時間前? うん、でも予約してれば預かってくれる筈だから。重くて大変でしょ?電話で聞いてみ」
無愛想と地元では評判のホテルのフロントでの交渉成立を見届けて、一緒に喜びあって、ぺこぺこ頭を下げながら歩く彼女らに前見て前!と叫びながら見送ってる内に、玄関前は気づけば吹き溜まりが出来ていた。
何時もの事だから溜息もつかない。仁王立ちで前を見るだけ。
よくよく見れば、吹き溜まりを作る風の動きは面白いし、よく飛ぶ葉っぱとほとんど動かない葉っぱもある事を知る。
何よりおんなのこ達は可愛かった。お礼を言われるのは、気分がいい。
やるかぁ!と根岸が腕まくりをし、ホウキを構えた前にすぅ、とタクシーが止まったりする。
いい感じのおじいちゃんとおばあちゃん。お泊りに決まっていた。
中西が言った、言ってくれた。言葉の意味はまだ、判らないけれど。笑顔は自然と出てくるものだ。
いらっしゃいませ!
返事をまるでしてるかの様に、風がぴゅう、と木の葉を攫っていく。
@げんかんまえは、みせのかお。
たつみや、根岸支店。ちがう、視点。でした。
ひさぎ夏維の40%くらいはパラレルで出来ているのかもしれない。
本当はこのあと、根岸が中西の鼻緒を直してあげる、というのが続くのですが(これだけ書くと変な感じだ)
長かったのでやめました。
続きは……元祖たつみやで!(仙台の方向に向かってズームイン)
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