入り口の横で。
止まない雨を、灰色の空をただ見つめている少年が居た。
手には傘を持たず。ただ。ひとり。
「・・・・・あれ?」
恨めしそうに空を睨む訳でもなく、どうして海はしょっぱいのかとか、何だかそんな。他愛も無さ過ぎる疑問視のようなものをぼんやりと顔に浮かべて、その後輩は立っていた。
立ち止まったのは何故だろう。
自問した処で、雨も彼も、答えてくれない。
辰巳は口の中で弄ぶように、今度は小さく、彼の名を口にする。
「笠井」
何時だったか。
雨を見ながら笠井がぽつりと呟いた。
急な天気の移り変わりにグラウンドから退散し、ばたばたと皆で着替え始めていて誰も気に留めていなかった。
―――凄い雨。
代理的に渋沢から鍵を預かっていて、最後まで残っていた。
笠井はぼんやりと。
―――溶けちゃいそう・・。
それだけだった。
恋焦がれるような顔をしていて。
何だか。
不安定で。
忘れる事が出来なかった。
「・・・・・・か」
ぎゅ、と古びた傘の柄を強く握り返す。
自然と力が入った肩を意識の外の追いやって、すぅ、と息を吸い込んだ瞬間。
視界の中の、彼が笑った。
「先輩」
コンビニの自動ドアが起動して、そこから出てくる姿を捉えてから笠井はばたばたと、雨の中を駆け出した。
傘も差さずに。
楽しげに。
苦笑しながら後を追い掛ける三上に、手を小さく振りながら。
「―――・・・笠井」
弱まった雨の中、気付けば辰巳は傘を降ろしていて。
ああ、溶けてない。
そんな当たり前の事を思って、空を仰いだ。
視界に映るのはあの日と同じ灰色で、ぼんやりとこの胸に振り続ける雨はこの想いは、きっと恋では無いのだろうと思った。
ただ辰巳は。
ただただ。
「・・・・・・ただ」
小さな君が溶けない様に。 君に傘をあげたかっただけなんだ。
@柔らかく、あたかかく、いてほしい。
素直に泣いて笑う君にエナジィを燃やすだけなのです。
辰巳良平がのぞんでることは、そう大きくもないですよ。どうかしあわせに。しあわせに。
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