太陽は山の端に近づいて、冬の空気を朱に染める。
こんな日の練習は視界が眩しいけれど、凄く綺麗な夕焼けが見れる事を水野は知っている。ほんの少し楽しみにすれば足が逸る。重心が少しずれたドラムバックを肩に掛け直した。
「水野」
はっきりとして聞き取り易い声が掛けられるのは、教室の扉に手を掛けたその絶妙なタイミングだ。
「掃除当番でしょ。ちゃんとやってよ」
もう既に荷物も持って教室を出ようとしていた水野の元までわざわざ歩み寄り、はい、と押し付けるように渡されるのは一本の箒。確かに今日、水野は掃除の担当で、教室と廊下がその範囲内だけれども、もうちゃんと自分の役割の黒板と教卓の周りを掃除し終わった。
班長である、けれど名前の知らない女子にごめん、と小さく謝ったら先に退散するのを許してくれた。部活の鍵開けは部長である自分が何時もやっている事だし、風祭たちが廊下で待っている事にさっきから気付いていたし。
だから、呼び止められるとは思わなかった。
「・・・小島」
水野が何か、言葉を告げようとすれば彼女はとても柔らかく微笑む。
「あんたが居ると手伝う女子が増えるのよ」
「・・・・・・。」
さあ働いて、と言わんばかりに箒の先で水野を掃き捨てる。そんな小島の後ろ姿を見ながら小さく嘆息し、それから廊下の風祭たちに水野は小さく頭を下げた。




「・・・大分、遅くなったな」
「―――そうね」
あまり人のいなくなった廊下を歩く二人を西日が照らす。
「ちゃんとあいつら練習やってるかな。メニューは風祭にさっき渡したから、多分大丈夫だと思うんだけど・・・」
「水野、お母さんみたい。ABの癖に心配症よね、ホント」
ゴミ捨てに行った帰りに職員室から呼び止められ、要らぬ雑用を押し付けられた。二人掛かりでこなしたものの、窓の外、ぼんやりだった夕焼けも今はまさに最高潮。廊下も窓も、自分達も。同じ色をしていた。
水野に届くのはくすくすと響く笑い声だけで、見遣れば窓側を歩く彼女の姿は朱に染まって酷く眩しい。何を想っているかなんて、何も見えない。表情も薄ぼんやりだ。
「・・・笑うなよ」
綺麗だと、思うのに理由なんて無い。
何となく顔が火照って、それだけ言うのが精一杯だった。
目を逸らす態度にその言葉に、彼女はまた笑いを重ねてくすくすくす。



「―――綺麗ね」
何の気負いも無く小島がそう言うから、水野もまた自然と答えた。
「・・・そうだな」
「ね」
何をとは、二人とも言わなかった。
教室も空気も、同じ色をしていた時間、この一瞬だけはきっと。

きっと。




「綺麗だね」
明日もまた、見れるといいな。
どちらともなく、そう思ったのは夕焼けが沈んでもう何時もの二人の色の頃。








@おなじいろ。


同じ空気を吸い込んで。同じ思いを抱ける、ただそれだけのこと。













SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送