風邪におたふく、はしかに喘息。それとインフルエンザ。
 根岸の知っている、覚えのある病気。
 その中には勿論、貧血も気絶も入っていない。


 何が起こったのか実際問題、根岸は知らない。
 ただまだうつらうつらとして、ぼんやりと霞掛かった視界に映るのは古ぼけた保健室の天井で。
 身体を包む清潔な、健康優良児の根岸にとっては少し鼻につく消毒の匂いがほのかにするシーツ。ベットを囲うカーテン。
 それと、顔に残るひりひりとした痛み。
 最後の記憶が部活中、一対一で対峙した、ライン際に追い詰めた三上のにやっとした顔。そんなものを総合すれば、何となくだけど想像付いた。ボールの跡が、顔についてなければいいと思う。

「あーあ」
 ばふ、と起き掛けた身体をまたベットに倒す。
 カーテン越しに探ったものの、保健室はどうやら自分の他はいないようだった。窓際のベットなのか、校庭の声が良く響く。グラウンドはここから少し離れているけれど、高い笛の音、おしまいのその音は根岸も聞き逃さなかった。
「…誰が、来るかな」
 ジャージを脱いだ形の、練習着で根岸はベットに寝ている。
 勿論目が覚めたのだから、このまま部室に戻って着替えに行ってもいいのだけど、顔はまだ痛い。
起き上がればもしかしたらクラクラするかもしれないし、頭を打った時は大事にしないといけないと誰か、確か、言っていた。外は寒いし。
 薄い割にずいぶんとあったかい、掛け布団を引っ張り上げながら根岸は思い出す。
 今はそう無いけれど、昔はグラウンドで意識を失くす奴なんてたくさん居た。
 居残り練。意地とムキ。監督やコーチの叱咤に、ドロの付いた頬と湿った目尻をぐい、と拭った。
 そして自分の様に、顔にボールをぶつけて失神するパターンも勿論、ある。迷惑そうに、でも口許をほんのり綻ばせて、保健室に笠井を運んでいった三上の顔を思い出すと、何だか笑えた。くすくすと。
「誰だろ」
 世話焼きの辰巳。部活用のドラムバックと学校の荷物、それなりに量があるから大森と高田が二人がかりで来るかもしれない。それとも渋沢が、心配性とお気楽屋、それと不可思議な後輩を連れてゾロゾロと?
 何にしても、近ちゃんと、そもそもの元凶の三上は大笑いしてるだろう。こなくそめ。
 のそのそと寝返りを打って、根岸はへへへ、と一人で笑う。
 少し焦った様な、廊下を駆ける足音は耳を澄ました根岸にももう届いてる。

 本当は誰が来るかを知っているのは、もしかしたら病気なのかもしれないと、思ってまた、根岸は笑う。







@それは、こいの。



わっ、はじめて中根と言い張っていいんじゃないかしら!(これで)
どうでもいいですが、良く寝てますね。うちの根岸。





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