学校、それも教室の自分の机。独特の喧騒を耳にしながらのうたた寝というのは、どうしてこんなにも気持ちいいんだろう。



 根岸が記憶しているのは、正直な所五時間目の授業の開始のチャイムまでだった。
 昼休みの小さな臨時ミーティング、放課後の買出し役決めのじゃんけん。ポテトチップスはカルビーののり塩がいいとあれ程言ったのに、多数決という民主主義の前に根岸の主張はあっさりと却下されたので不貞寝した。そこまでは確かに覚えている。
 頭の上から降ってくる苦笑、揺らぐ空気、頭をくしゃりと撫ぜられた。じゃあまたな、と言って居なくなる大勢の気配。三年になってから同じクラスが居ないのは根岸だけで、そうして何も言っていないのに自分の処へ集合が自然と掛けられる様になった。子供じゃないんだからと怒ってもよかったが、気づいたのも随分と後だったから怒鳴るタイミングも今更難しい。そんなどうでもいい気の遣いへの、礼を言うのも。基本的に素直な部類の根岸と言えども、難しい。
 薄目のまま窺えば、どうやら掃除も終わった放課後の様だった。多分自分は机ごと放置されていたのだろう、頭を乗せたままの腕の横には昼間の菓子クズがしっかりと散らかっている。起き上がった勢いで床に零してしまえばすっきりするだろうが、クラスメイトの反感を買うのは目に見えていた。なのでじゃないが、根岸は目を瞑る。
 放課後の練習は時間厳守。遅れれば我らがキャプテンから問答無用の罰走が与えられるのだが、それは監督やコーチの見せしめも混ざった理不尽な罰を無闇に与えない為の防衛策なのだと、根岸はもうあの不器用な優しい性格を知っている。だからといって受けたくは無いので、一分前行動をどうにかこなしている日々なのだが。
 耳に聞こえるクラスメイトの話し声、グラウンドに響く掛け声。陸上部のランニング中の言葉は、何度聞いても意味が判らない。
 タイムリミットが近づいているというのはもう判っている。薄目を開けて立ち上がり、悠長に歩くにはもう不可能くらいだろう。けれど根岸の身体は動かない。うたた寝の心地好さとそれと、もう一つ。噛み締めたいものを、根岸は一人待っている。


「根岸?」


 覚えているのはのり塩を却下された事。へたり、と机に突っ伏した根岸の頭を撫ぜながら、俺はガーリックが良かったなぁ。と一人づいて、隣のクラスへと帰っていった友人の事。委員会があるから先に行っててと最後に告げた、その言葉に根岸は頷かなかった。寝たふりを決め込んだ。
 ねーぎし。自分相手だと、何故だか幾分か柔らかい口調になる中西の声は、もう随分側で聞こえていた。
 
 もう最近はあんまり見ない味、学校側のちっこい店でそれでも何故か売っていたりする事を彼は知っているだろうか。教えてあげてもいい、うつらうつらした頭でそう思う。会議室から部室のあるロッカールームまでの最短距離を使わずに、遠回りしてくれた礼として。賞味期限は見ないふりをして、二人、揃って食べてやってもいいと思う。
 起こす気あんのかなっかにしー。クラスメイトの軽口に、うっせえなぁ、と応えたその声の方が大きくて、思わず根岸も噴出して。寝たふりを怒られるより二人揃って駆け出した。後一分で練習は開始する。ポテトは多分、自分が奢る事になるのだと思う。






@きみはきたいどおりだね。


何だろう、もう少し長い筈だったのに。お得意の会話レス。…いえ嘘ですすいません、これしか書けないんですこの人。これじゃいけないと判っているのに。
M沢さんが大変飢えていらっしゃる様だったから書いてみたけど、あれ、根岸だったっけ。確か中根だった様な・・・あれ、これ、根岸。(ひとりごと)








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