10分前には待ち合わせの場所に居る。それはポリシーというより、性質めいた。




君行き






ささくれじみた変な曲がり角は、前から事故多発地帯の看板が置いてあった。
武蔵森レギュラー自慢の足も、小学生の自転車には流石に敵わない。子供の自転車は走る中西の横をすい、と通り過ぎ、角を先に曲がろうとしていた。
出かけにゴタゴタしていて待ち合わせ時間まであまり余裕も無い。焦ってはいたけれど、家から五分、休まずに走っていれば流石に中西の息も切れた。すぐ前の曲がり角まで行ったら少し休もう。そう思って、ラストスパートをした処だった。擦れ違った時の子供のふふんとした笑い顔、絶対追いついてやるなんて柄にも無くムキになって。



飛び出してきたのは乗用車か、自分達か。
看板が大きく揺れて、あぁそういや電柱の下に花が添えられていたっけねとのんびりとそんな事を思い出した。



「―――大丈夫ですか!」
途端に車のドアを開け、駆け寄ってくる辺りは悪い人ではないらしい。
反射で押さえ込んだ子供は中西の胸の中でえんえんと泣いている。男だろうがと怒る気も、柄も無い。背中を思い切り打ったのか、少し身体を動かすだけで響く痛みが頭まで届いた。
「救急車っ、あの、どっか痛いところっ!いや自転車ごと壁にぶつかったんだからっ、そりゃ痛いよねっ、今救急車呼ぶから待っ―――」
「あ、大丈夫なんで止めてください」
「えっ、いやそんな、だって」
「この子も額に擦り傷作っただけです。自転車は大破しちゃったけれど・・・じゃ、すいません俺急いでるんで」
未だ泣きやまない子供を人の良さそうな加害者たる彼にすっと預けて、中西は立ち上がる。咄嗟に庇えたのか、足はまるで傷付いていない。そんな自分にハラショーだ。背中の痛みもほっとけば忘れられる程度だと思う。
取りあえず絶対なのは明日の練習にも出れる事、それと今は時計が壊れていない事。


「―――後、5分」


ちょっと君っ、せめて名前だけでも!
そんな言葉に後ろ髪を退かれつつ、それでも何とか走り出す。
名乗る程でもって一度くらい、言ってみたいと思うだろう。誰でも。





「わりーわりー遅くなっちゃってさ!相変わらず中西早いね!ごめんね!」
待ち合わせからきっちり30分は遅れるそれを、根岸時間と名づけたのは随分前だ。
たまに中西が遅れてきても、計ったかの様に後からやってくる、それはある意味彼のポリシーの様なもので。性質めいたものでもあって。
手を顔にくっつけながら、歯を見せて笑って、謝り倒す。
そんな変な矛盾な顔を、見るのが中西は好きだった。
「おせーよ」
「やー、何か通りかかった道で子供が轢かれそうになったらしくてさ!人垣出来てるから、ついふらふらとね。で、間一髪子供を助けた人ってのが、名前も名乗らずに立ち去っちゃったらしくて!もう子供のお母さん号泣で、ありがとうございますって凄かったんだよ。見入った」
「ふぅん」
「中学生か高校生くらいらしいよ。案外知ってる奴かもな。どうだろな」
「・・・どうだかな」
素っ気無く答えて歩き出す中西の上着には砂がついている。叩き落としながら、根岸は転んだのかよとまた笑った。
お前に早く会いたくて、勢い余って人助けもしたよ。
そんな事を言える筈は勿論無いので、黙って中西はサンキュと言った。






@思ってるより僕は、周りが見えなくなるらしい。君以外。


なっつんへ。(高く高く上に差し出しつつ)
普通の顔して凄いことする、グリーンウッドの忍先輩みたいにしたかったのになぁ。中根電波すげぇなぁ。









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送