「暑いなー」
「そうですねー」
狭い寮の一室、クーラーも扇風機も無い茹で上がりそうな灼熱の部屋の中で、もう何度目だか判らない言葉を繰り返している。
三上は窓下の、どうにか陽射しの入らない角度に壁に背凭れて。
笠井はその隣、机から冷気を少しでも吸い取ろうとへばりついて。
お互いに少しでも触れ合うと「あちぃ」なんてガンを付ける。下手をすると拳も滑る。その割に離れもせず、部屋からも出ず、ずっとずっと、此処に居る。
二人で居る。


「・・・渋沢センパイ何処行ったんでしたっけ」
息も絶え絶えなんて表現ぴったりに。搾り出される、笠井の声。
「あー買い物―。土産にアイス買ってくる、言ってた・・・」
「へぇ・・・」
「・・・まぁ、昼には帰ってくんじゃねぇの」
気だるげな会話は延々と。
別に心地良い訳じゃ決して無い。窓近くの木にはアブラとみんみん、何だか知らないけれど二種類もの蝉がいらっしゃる程。耳障りな音、纏わり付く重苦しい空気。息苦しさが溢れて、呼吸も侭ならないのも、それも本当。
途切れ途切れの会話も理由の一つ。けれどやめない。やめたら、途切れてしまうから。
会話だけは、せめて。


「賭けをしよう」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「・・・会話を止めた、方が負け。誰か帰ってくるまでの勝負で、負けた方は勝った方の言う事を聞く。オーケイ?」
「勝手に決めといてオーケーも何もあったもんじゃないですセンパイ・・・」
「うっせー黙れ。暑いんだボケ」
「理由じゃないです、それ」


ぶつぶつ言いながらベクトルずれながらも、言葉のキャッチボールは始まった。
相変わらずゆったりと自然となってしまう口調、弱弱しい言葉の端だけれど、留まる事は、決して無い。
内容が決して有る訳では無い。
多分、理由なんてまるで無い。
それでも会話は続いていく。
隣に居るから、目も合わせず肌も触れず。でも言葉だけが、確かに触れ合う。

「暑いー暑いーあっつーいー。笠井、涼しくしろ。命令」
「そんなん出来るならとっくにやってます。自分の為に」
「・・・俺の為でも?駄目?」
「男子中学生が首を傾げても可愛くありませーん。・・・あ、でも。出来るかも。やってほしいですか先輩」
「やってやってー」
「だから可愛くないってば」

久しぶりに目が輝いた三上に、にっこりと優しく笑ってやって。
笠井はす、とにじり寄る。

「せーんぱい」
「・・・あ?」
「じゃ、今日は俺が上って事で」

みーんみーん。
留まる事無い蝉の声。
じーじーじー。
今は何だか遠くに聞こえる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」
「ん。良し」
「竹巳さんちょっと目がマジで怖かったんですケド」
「気のせいじゃないですか。てか暑っいなぁ、もう・・・」

覆い被さった所為で触れ合った肌と近づいた空気。熱を持つ、身体。
会話は相変わらず続いていく。負けず嫌い、そんな性格はお互い様。
肌を辿る汗ももう、不思議なもので気にはならなかった。



「暑いなー・・・」
「・・・そうですね」
もう何度目かな。と三上は笑った。
何度目ですかね、と笠井も返した。伸ばした足がほんの少し、日に当たる。時間の経過。身体で感じた。

遠くでは熱雷の音、ごろごろと蝉に対抗して鳴いていた。





@あついひ、寄り添う、あついひとはだ。


暑中見舞い企画、みかさへん。夏蝉と微妙リンクなのは時間帯が同じだからですよ。
汗だくでごろごろ、それでもどうにか過ごす夏の空気は案外好きです。






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