小さな事で喧嘩する様になった。


 捨て台詞残して飛び出した処で、行き着く場所なんて自室しかなかったりする。
 仏頂面はそのままで、布団を被りながらもう一度勢いで言った言葉を繰り返す。

 喧嘩の内容なんて覚えてない。
 明日になれば忘れてしまう様な些細な事だから、きっと悪いのは両方なのだろう。
 年上の余裕さで年下の気遣いでどちらかが退いてれば、こんな気分は、きっと無かった。筈なのに。

 何時の間にこんな対等になったのだろうかと思う。

 少し前まで、拳で語れる相手になるなんて想像もしていなかった。
 勿論実際、やった事はないけど。まだ。
 口にしてみると実態の無さは明らかだ。
 心にも無い言葉は、すぐに布団に潰された。


 掛け布団をぎゅう、と握ると顔が浮かんだ。
 唇を噛み締めるのは無意識で、その大元を辿ればやっぱり悔しさなのかもしれない。
 甘えなのかもしれないけれど、それでも判ってほしい。そう、思うんだ。

 これが俺なんだからそのままでいいじゃんって開き直り。
 自覚済み。
 好かれてる自信は、それでもそれなりに。あるんだ。



 寝返りをもう何度打っただろう。ごろごろごろ。
 もう少ししたら藤代がジュースを持って戻ってくるから、その前に意を決めて布団から出ようかな。
 藤代が帰ってきたら、きっと背中を押してくれるから。
 勢いに任せて駆け出してみれば、心にも有るごめんなさいが言えるかな。









 

喧嘩する程なんとやら。
 さて、なんて言ったっけ。
バカ代じゃあるまいし、こんな下らない事で誰かと言い争う日が来るなんて。正直思いもしなかった。



捨て台詞なんてさっさと忘れて開いた問題集。
 カチカチシャーペンを鳴らすばかりでちっとも進まないのも、
飛び出ていったその背ばかり離れずにいるのも、バカみたいに柄じゃない。

格好悪い事ばかりで性に合わなくて、もうやめたいと思った事も何度か、あるさ。
勢いめいて口元まで込みあがった事だって、多分。ある。
それでも言ったことなんて一度もないから、きっとアイツは知らないだろうけど。


・・・サッカーに、似ているんだと思う。
止められる訳ないからこその、甘えからくる冗談の様で。
やめてやるぜと言い切るその顔は、何時でも笑ってばかりの記憶。

馬鹿みたいだ、とひとりで呟く。



ひっくり返したらどんな言葉になるかなんて、殊更それは本音の様なもの。
判ってるから、側に居るんだ。

柄じゃないのは自覚済み。
少し練習してから行こうと思って、白紙が目立つノートに三文字の言葉を書いてみる。
ごめんも好きだも、何時も飲み込んでばかりのそれだから。
シャーペンの音が気にならなくなるまで、繰り返し、だ。

芯が切れたら、会いに行こう。







けんかのあと。
いつのペーパーだろう・・・うーん。思い出せない。
多分もってるひとはそう多くないと思うので、再録。データがあったから。

というより、藤代のはなしを表に出したかったから。


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