外出好きの両親に連れられた、幼い頃の記憶は見覚えのある所が意外と少ない。
「そうなんだ?」
「うん・・・何かね。その場所の雰囲気とかそんなのは判るけど、其処までの行き方はほとんど覚えてないのが多かったなー。車でいつも移動してたし。近いのか遠いのかすら、さっぱり」
あの時も、そう。
車に酔った母に付き添いながら、すぐ戻ってくるから。と川沿いの公園に車を止めた。
小指を絡めて約束したのは公園から出ない事知らない人に付いていかない事危ない事はしない事。
遊ぶのは止められなかった。から。
「・・・そいつと。サッカーしたんだ?それが最初?」
「――――あ、や・・・違うんだけど」
ちょっと過去の世界へ飛んでたら藤代に話を作られたので軌道修正。
ぶっちゃけそんな綺麗な思い出じゃないし。
あやふやな記憶を辿りに辿れば、一緒に遊んで叱られてつねられて。
・・・何だかちょっぴり。
今更にムカッとしたり。したりして。
「笠井。顔コワ」
「あれっ、出てた?」
「うん」
・・・良くないなぁと思うのだけど。
感情表現はホント、豊かになった。
ぴしぴし叩いて話を戻す。
「・・・その次の、週だったかな。やっぱり出かけた帰りに、もう一度行って。って。駄々こねたんだ、俺。その頃引っ込み思案で我侭なんて滅多に言わなかったから、何か嬉しそうに連れてって、くれた」
ベンチに座るネクタイ姿の人黄色い帽子の保育園児砂だらけのその姿に怒るお母さん。
居る訳無いと思ってた。
やっぱり居なかった。
手持ち無沙汰に引き寄せたのは柵の隅に転がっていた白と黒の。
「サッカーボール?」
「うん。持ってたら道反対の方から声掛けられた。お前もやるかって。・・・見た事あっても、やった事なかった。けど」
ちゃんと言えよ。
ろくに覚えてない癖に嫌にクリアなその声が。
今、どうしているのかな。
「・・・別にそいつが持ってたのかなんて判んないけど。もしかして全然関係無いのかもだし。・・・でも逢わなかったら。知らなかったかもね、サッカー」
「―――・・・良かったね」
「うん」
少し間を置いて。藤代が言った。
「・・・そんで。逢えたの?その後」
少し間を置いて。笠井は笑った。
「・・・ううん」
ごめんね、なんて慣れない言葉言われて今度は大爆笑だ。
発作と笑われて斜めになった藤代のご機嫌が収まってから、今度はゆっくり。余韻めいて。
「いいんだ、全然」
ちらり、と時計を見る。
もうすぐ三上や渋沢と、約束した時間。腕時計を指差せば、ガタリと立ち上がる二人。柵が揺れる。手に持つのはペットボトル。
澱み無く笑えば太陽も揺れた。
「・・・またねって。言ったから」
今日も何時もの夏日。
遠くに見慣れた二人の姿を捉えて、行こうかと。藤代が振り向く。頷く。
駆け出せば汗が頬を伝うのが判った。
良い天気だった。
運命、偶然、そんなも。感じたような、全く知らずにいたような。そんな、そんな時間だった。
@ぼくはこうしているけれど、あなたもどこかで何してるかな。
ずっと気づかないまま、探しもしないまま。
ただ言葉だけ残っていて、大事にしていて。よりそう隣の人間にさえ、言わずにただ忘れずに。
さー、なつきの続きいってみようか。( 満面の笑顔で )
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