「―――で」
今日も相変わらずのいい天気で。
何だか闇雲に石でも投げたくなったりするのは、心の荒みのソレかしら。
公園の入り口の柵に寄り掛かって、二人で話す。
「結局捕まんなかったと」
「・・・そーだよ」
「そんでも諦めきれずにこーやって学校帰りに毎日毎日公園通ったりしてる訳。しかも今日なんかは一度来てから家帰ってそれから俺わざわざ伴って、そんで二回目。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あーそーですそーです多大な遠回りだって判ってますよそーですともさ何が悪いよ!お前結局何が言いたいんだっつうの、秀ちゃんめ!」
手に持つのは駄菓子屋30円ジュース。
よっちゃんイカに笛ラムネ、金出しあったJリーグポテトチップス。カードは後でジャンケンで取り合いだけど。
ポケットの中の小遣いで。買ったお菓子を路上に広げて、今日は何だか、ちょっとした宴会気分だ。
ラムネの笛をぴー、と鳴らした。中西はにぃっ、と笑う。
「だっさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっせー」
「まぁでも・・・いんじゃね?らしくて」
皮肉屋が素直に声を上げて。
思わず立ち上がったら、狭い裏道をスピード出して駆けてく車。よろけたらまた聞こえた笑い声だ。
睨みつけたらそれでも飄々と危ねぇなぁ。なんて言ってる中西さん。
悔しいので意地になって続きを言わせた。
「別に大した事じゃないけどさ」
「そうかよ・・・」
「そ。馬鹿だねホント」
少しだけ、その言葉に正直がくり。
視界の正面にあるのはあの日一緒になって漕いだブランコ、別に逃げる訳じゃないけど。俯けば映んないと思った。
・・・やっぱり馬鹿かなぁ、俺。
何度も首を傾げて考える。でも浮かぶのは何時も、あの時のとろけそうな微笑みだ。
手の中のサッカーボールがコロコロと転がる。
「馬鹿だけど、まぁ」
追いかけようと立ち上がったらつい止まってしまった。
「いいんじゃねぇの」
河川敷の公園、遠くで水音。
道反対にはこの辺では珍しい、サッカーゴールがあるグラウンド。同じくらいもしくは上の少年達が、身体全部でボールを追い掛けてる。
振り向いて、聞いた。
「・・・いいかな。馬鹿でも」
「―――俺はいいと思うけど」
「明日も、お前、付き合ってくれる?」
「・・・いっけど」
ジュースを一気飲みする友人に、良かった。なんて素直に笑う。
明日は奢れよ。と中西は立ち上がる。
そして乗ってきた自転車を蹴飛ばして、道を越えて。大声だ。
「―――俺らも入―れーてー!」
またねって言った。
だからいいんだと思った。
今日も良い天気だから、それでいいんだ。
「・・・別に、さ。また逢ってどうしようって考えてなんか無いんだ、本当は」
「・・・ふぅん」
「―――ただ、」
大事なのは、多分。
風を切って坂を駆け下りる爽快感とカラスの鳴き声と夕暮れと。
そんな当たり前のもの。
はしゃぎ過ぎての大騒ぎ、そのまま勢いで土手に倒れこんだら汗と草の混じり込んだ、夏の匂い。
「・・・ただ、思った事ちゃんと言える様に。なってるかって。・・・思って」
中西は黙って寝転んでくれている。
少しの間、優しい沈黙が二人の間に流れた。遠くに水音、正面に広がる河川。もうブランコは見えなかった。
小さく小さく、アイス奢るわ。と三上は言って。
立ち上がれば泥まみれ。誇りめいた勲章。
ガリガリ君を買っていこう、と中西が答えた。
大事なのは、多分。
そんな当たり前のもの。
あてのない約束が、宝物になったりしたって、別にいいんだ。
公園の柵がギシ、と揺れる。
明日への予約、其処はもう指定席。
馬鹿の一つ覚えだと、思いながらもペダルを漕いで、坂を下った。
ゆっくりゆっくり、今度は下った。
@どこかに、それでも居る君へ。
見返したら、中西の名前がまだ「朗」でした。ダブルあきら時代。
(そもそも保存していたフロッピーには2002〜とか書いてあった・・・ぶるぶる)
会ってどうこうじゃなくて。
ただ、何となく覚えていて。
いつかまた出会っても気づかなくていいけど。
どうかどこかで、元気でいて。
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