松葉寮の玄関口から中庭にかけて、この季節の大仕事といえば落ち葉掃きだった。 丁度ドタキャンで練習試合が無くなった日曜日、惰眠を貪ってた寮生一同を怒鳴り声で叩き起こされ、寮母さんから命を下された。私立の力を見せ付けた広い敷地も、サッカー部総出で掛かれば軽いものだ。然程汗も掻かずに落ち葉の山が二つ三つ程出来たのは、まだお昼の少し前。昼食は頑張ったご褒美、期待しておきな!空を抜ける鮮やかな声を追いかける様に歓声が沸いた。冬の目の前の、紅葉もおしまいの、それでも日が暖かいいい天気の日。 「どうすんですかね、この落ち葉」 立ち止まると流石に肌寒い季節。はぁ、と掌に息を吐きかけながらの笠井の言葉を受けて、三上も同じ落ち葉の山へと目をやった。赤や黄色のかたまり達。それは紛れも無い秋の落し物で、何だか暖かさや優しさの象徴の様に何だか思えた。どうすんだろうなぁ、と意味の無い相槌を打ちながら自分でも考える。どうすればいいかなぁ。思い至ってちらりと横を見れば、笠井と目が合う。何か企んだ、悪戯前の子供の様な顔をしている。 口を揃えて言った。お互い同じ事を考えているだろうと、高括りで。声が揃うなんて、そんな難しい事をそれでも何処か、信じてた。 「焼き芋」 「昼寝」 楽しそうな笑みはそのままで、お互いに目もやらずに言葉を重ねる。風が掠める様に吹いて、山から落ち葉を一枚攫っていった。深みのある鮮やかな赤だった。 「どこの年寄りですか、サボり魔」 「…お前最近、藤代に毒されてねぇか?芋なんてコンビニで買え、コンビニで」 「何時出来るかってわくわく待つのがいいんじゃないですかー!風情が無い人だな、ホント!」 他愛も無い口喧嘩はすぐ飽きる。三上は早い者勝ち、と言って落ち葉の山にどすんと寝転がった。天然の布団はふかふかして気持ちが良く、ふんわりと優しい秋の匂いが鼻を擽った。 目を瞑っていたから良かった。風も無いのに落ち葉がどすりと降って来て、三上の姿なんてあっさり埋まる。ざまあみろ!笑い声は、空に抜けた。 「てめぇっ、殺す気か!」 「燃やしても食べれないから、やりませんよ。芋取ってくるまでに起きて下さいね!」 「食えたら燃やすってか…おい…」 寝転びながら三上もしっかり噛み付くけれど、遠ざかっていく笠井の背を追いかける様な事はしない。戻ってくるのは判っているし、自分が寝こけたりしても燃やさないと言った。だから追いかけない。戻ってきて、落ち葉をまた山の様に振りまいて、それでも動かない自分を覗き込んできたら、その襟足を腕で掴んで引き込んでやろうと決めた。きっと文句を言うだろうけど、何するんですか!とちょっと怒るだろうけれど、きっとこの気持ち良さを判ってくれるだろうから、そうしようと三上は決めた。その後二つ、持ってきてくれるだろう芋を焼けばいい。ほくほくする金色は紅葉し切った銀杏の葉の色に似ている。鼻先を丁度さっき、掠めたのだ。 「どんなもんだかなぁ」 呟いて、欠伸も出て、三上は目を瞑る。陽射しは暖かいので昼寝にはもってこいだ。ざわめきは程好く遠い。うとうととしながら、早く帰ってくればいいと思う。 冬は目の前の、日曜日。いい天気のまま、気付けば午後を廻っている。 @きせつのすごしかた。ふたりのすごしかた。 三笠版、落ち葉を前にして。熟年夫婦。(あーあ…) |
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