何て言えばいいのかな、あの色。
冬支度には少し早い、秋の衣装のままの街路樹を見上げながら、笠井がぼそりと色を持たない吐息と一緒に吐き出した。
何かの考えに没頭しても、歩みを止めないのは彼の何時もの事。視線と漏らした僅かな台詞、そんな断片的にしか情報を与えてくれないくせに、それでも返答も欲しがる癖は正直我侭だと三上だって思う。でもこの沈黙は無意識の甘えで、自分の前だけの我侭で。そう判ってみると自然と口許も緩んでくるから、三上も同じ様にその木を眺める。緑から色を変えた葉っぱは、気づけば随分落ちていた。
「オレンジとも、黄色とも違う。綺麗なのは判るんですけど」
 此処の所風が強い日が続いている。噂をすればで、少し長めの笠井の髪と自分の気の早いマフラーをぴゅう、と攫っていく。目を瞑ってまた開ける。見た景色は、確かに笠井の言う通り、綺麗だった。
 口に出した言葉に、どれだけの気持ちが詰め込めたのかは知らないけれど、取り合えず言った。
「何でもいいんじゃねぇの」
 オレンジと黄色、それと元の緑がうっすら残った一枚の葉。拾い上げて、三上は目の前でひらひら廻す。綺麗だと思った。だから。何でもいいと思って、そうして好きに言えば、と言った。
 ぶっきらぼうは悪い癖だと、三上の事を笠井は良く笑った。多分他の人間相手じゃ、こんな風に隣を歩けない。出会ったばかりでも、付き合ったばかりでも、こんな裏返しの、本音は、吐けない。
 怒りもせずに、浮かんだ、と嬉しそうに手を叩く笠井は、葉っぱが色を変えるくらい、不思議だと三上は思う。


「…みか――…んの色、だ」
 今日も風が強い日だ。
 髪も、マフラーも、人の言葉も。あっさり攫って、飲み込んでいく。


 何でだろう、三上さん見てたら思い出したんだ。
 なんでもない顔で横を歩く笠井はにこにこしている。相変わらず街路樹を見ながらの歩調は緩やかだから三上も離されずに済んでいるけど、本当は立ち止まって座り込みたい気分に駆られてた。
 ずっと思ってたんだ、実は。
 オレンジ黄色。葉っぱは暖かい、柔らかさを含んで今も三上の掌の中にある。その綺麗なもの。綺麗なものを見ながら、綺麗な笑顔が、はい、とその掌の中に落とした。それは何の偶然か、同じいろ。
 歩きながら食べるのもいいんですよ、こういうの。
 取っといたんだ、と鞄の中から笠井が取り出したのは、三上は練習後に配られて早々、食べてしまったオレンジより柔らかく黄色より優しい色の、秋のかじつ。しっかりと塗られたワックスの所為か、きらきら光ってる、蜜柑は笠井の好物なのだと、知っている。知っているから、だから三上も、今度は素直に項垂れた。
 なんて言えばいいんだこんな気持ち。三上のぼやきに、返事は返って、こなかった。








@もう、すきにして。


いっぱい詰め込みすぎたかな、と後で反省をこっそりです。
オレンジ色より、蜜柑色の方が柔らかくないですか。響きが。

そして笠井は勿論ですが、確信犯です。










 

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