「三つ子の魂とはよくいったもんです。昔のひとって、うん。凄い」
 息を切らして汗だくに、青い空を見上げてやるのは案外に気持ちよくて。心地よくて。
 気に入りのそれを無粋な言葉に邪魔されたというのに、腹立たしさも感じない理由を三上も多分知っている。







「ずっとそうなんだって、ホントは気づいていないでしょう」
 中学から数えたらもう二桁、離れた時間も勿論あったけど一緒に過ごした時間の長さといったら、それこそ全部、思い出す事さえ出来やしない。
 長い付き合いの相手。いろんな事を知っている彼は、だからきっと三上のそんな好みも知っていて、ある程度の間を置いてタオルを投げつけてそう笑いながら声を掛けるから。そんな計算ずくに不快さなんて抱かずにすんで、三上もサンキュ、と小さな声で言えるのだった。
「・・・外面ばっかよく見せるんだ。先輩は」
 朝の空気はそろそろ霧散する、時間だった。
 もう懐かしさもついてくる先輩なんて呼び出しで始まった笠井の憎まれ口は、雲から顔を出した陽の光と一緒に降って来る。
 初冬の弱弱しさに似合った、うっせ、なんて力無い返しは否定の言葉なんかには、なりたくてもなれない。
 重ねる笑い声の柔らかさは、タオル越し。聞き流すには丁度いい心地よさだった。
 そんな所は決して計算じゃない天然さで、三上に接する彼の性格に。もう随分前から、救われている、その事にもそろそろ気づいている。
 風が不意に凪いで。一緒に流れた笠井の言葉に、攫われたものは何だっただろう。


「でも、それを突き通せるのが先輩の凄い処なんですけど」


 失礼しますも何も言わないで、寝転がる自分の足首を掴んでテーピングを換えていくその慣れた手つき。
 専門を卒業したてで、これからの行き先に悩んでいたこの後輩を無理やりに専属に仕立て上げたのはもう随分前になる。
 その時からずっと変わらない丁寧さ。
 こんな事を繰り返して、気づいたら強さを。手にしているなら、いいと思う。
「空元気も元気は元気で。強がりも、・・・本当に弱ってたら出来ないよ」
 だから本当は、凄いんだ。
 爆弾を抱え込んでいる三上の膝をゆっくりと、その無骨な形を指先で撫ぜていく。
 ・・・だから一人くらい。知っておいて、あげますよ。
 目立つ腫れも無く熱も持たない事に、笠井は自分の事の様に目を細めて、嬉しそうにした。
「俺も、三つ子の魂だ。・・・知ってますか、そんな先輩見てるから何とかやってこれてる事」
 ハイおしまい、とぽんと叩くのは少し前に作った下らない擦り傷。
 その辺の実に効果ある攻撃も相変わらずで、飛び跳ねた身体を見て笠井は満足そうに笑った。
「追いつきたいって望んでる訳じゃないけど。・・・進歩、無いけど。それでも何とか、やってくしかないんですよね」
 笑いながら包帯をしまう笠井の顔には、後悔とか悲哀とか。そんなものはまるで無かった。
 不意に考える、手を引っ張ったその事を。聞いてやりたい衝動に駆られる時も時に有るけど、杞憂は愚かな事だと彼の横顔を見る度に思う。
 振り払えない弱さなんて、何処を見ても、無いじゃないか。
「先輩はどうですか」
 タオルを解いて、見上げた青は相変わらずの綺麗さで。朝の清浄さは消え果てても、河川敷の風景はいつも三上の気に入りだ。
 笠井の言わんとする事なんて判っているから、手で軽く制して。起き上がって背に付いた芝を払う。
 むきになって続けた壁打ちの所為で本当は軽く痺れていた足も、比べても軽さを増していた。
 言わんとしている事なんて、三上もずっと前から知っているから。
 だから、そっぽを向いて。テーピング上手くなったよな、なんてプロになんて失礼な感想と、それからサンキュ、と繰り返しての。その程度の言葉を落とすだけ。




 本楽しみだよな、と間を置いて不器用に笑えば、笠井も笑顔でハイと答えてくれた。
 そんな事が嬉しかった、ただそれだけの。それだけの。









@こうして、ぼくらはあるいていく。


三笠の日記念、というよりただただお礼の気持ちを込めて。それを出したのが三笠の日だったという話で(ある意味酷い)
僕らのペレストロイカ、という話があって、健全森オールなんですけど最後に三上と笠井が出てくるので。それの続きであったらいい。

関係があろうとなかろうと、実際の距離があってもなくても。
三上と笠井が、離れてなければすごくいい。

お名前出していいのかな、感想ありがとうございました。遅くなって、申し訳ないし見てらっしゃらないかもしれませんが捧げたかったんだグリーンさんとマーチさんへ。(どうにか仮名で・・・)(そえにしてもあんまりじゃねえか?)
おふたりとも嬉しい言葉を、たからものをありがとうございました。じわり。












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