何で笑ってんの。
それは扉を開けられて、お帰りと迎え入れての第一声。
自覚も無しに無意識で口を手で覆ったというのに緩んでた頬に少し、少し。驚いた。








寝転ぶ、ただそれだけの事で何時もの部屋は随分と笠井の景色を変えていく。
出された座布団も狭い部屋の中にしっかりと存在する小さなテーブルもするりと避けて。家主の留守の隙間に、笠井がごろりと寝転がったのはたんなる一つの気まぐれだった。
視線の低い部屋はある物全てが妙に大きく見えるのが何だか不思議な感じだ。何だかんだでいつもキチンと整理整頓されている部屋の、机の隅やコンセントコードの周り。埃なんか溜まってるのを見れば、几帳面な渋沢も人間なんだなぁと笠井もくすくす笑えたり、した。(この部屋の主だった掃除担当は口煩い三上だったりする事を、笠井は知らない)
ジュースを買いにいった三上はまだ、帰ってこない。
談話室までの道のりなんてあっという間だ、後五分もしないで戻ってくると、頭では判っているのに身体はまるで動かなかった。
目を瞑って耳を直接床に押し付けた。これも思いつき。ダイレクトに伝わる振動は、思った以上に笠井の気持ちをわくわくさせた。
力強い、主張の強いどすどす歩き。駆け足は結構部屋が揺れる。ふざけながら歩いてるのだろうか、笑い声と何だか変な、ステップめいた軽やかさ。


根岸先輩かな。
思った以上に個性豊かな足取り達の一つに、根拠も無く推理をすれば、計ったかのようなタイミングで聞き覚えがある声がドア越しに響いた。噛み締めていたくすくす笑いは今度こそ、大きなものになって。笠井も仰向けになって寝直した。


沢山の足音。人の声。分別なんて、本当はきっと出来る筈も、無い。
なんだかんだで距離のある振動と音は子守唄にも似ていて、段々と笠井の目尻も降りてくる。ぼんやりとしてきた意識の奥、また足音が聞こえた。随分と遠くから、他にも沢山あるのに。規則正しさとか迷いの無いまっすぐさとか、そんなの多分、言い訳なんだと一人、思った。
少しだけどきりとして。
部屋の前でぴたり、それが立ち止まったら動悸はいっそ面白い程逸ったから、うつぶせに戻って顔を床に押し付けた。




「・・・何、やってんだ。ホント」
席を外して約7分、戻ってきて扉を開けたら、後輩が床に転がって身悶えてるなんて、そう滅多に無い。
不審そうな目を向けられても尤もだとは思うけど、笑える余裕も説明する気力も、今の笠井にある訳無い。
座布団をどうにか手繰り寄せ、顔にぎゅうと押し付けると、また扉の向こうで誰かの駆ける、足音がする。耳に随分響いたそれなのに、欠片も気にならないでいる。その理由にそろそろ笠井も、気づいてた。







@きみのけはい。


敏感にもなるよ。

三笠リハビリ、どうにからしく戻ってこれたかな。








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