第一声を受けてまずしたのは呆然なんて表情、それから自分でも自覚していた。緩みの具合。


「…なに、その顔」
訝しげに笠井の顔が歪むのもしょうがないと、三上だって思う。部室の扉を開けた先輩に対して、先人の、そして後輩の常として声を掛けた。ただそれだけの事。ただそれだけの事なのに、妙に大袈裟なアクションを取って顔を背けて口元を押さえたりしたのは三上の勝手なのだったから。
「ごめん」
「…や、謝る必要とかはないとは思うんですけどね?それにしても。何ていうか、…ねえ?」
「ん、まぁ…何となく判る。判るから、だから。うん。…ごめん」
所在無く視線をゆるゆると動かして、視線を合わさないのは何か疚しい所があるからじゃない。
ただ無意識で考えて、過ぎった思考が馬鹿だった。ただそれだけの事。
「ごめん」
「…変な三上先輩」
「うん、俺多分…変なんだ。だから、笠井…あのさ」
言い渋っているのに口元は多分笑っている、それもまた面白さの一環だった。
もう一回言って?
教室で自室で、考えれば何処かしらで言われる何でも無い言葉に、これだけ嬉しく思うなんて、気付いた事が面白かった。馬鹿だった。




「三度目のごめんは返さなかったからだから」
「…は?」
「…おかえりには、ただいまって。言うもんだろ。…違うか」
向けられた呆然とした表情はどこかで見た覚えのある不思議さで。でも時間を掛けてでも、それでも、へにゃり緩んだ顔が。違わないですね。なんて言ってくれる口が。
遠い未来の向こうにもあればいいなと思いつつ、今度は三上もきちんと返せたそのことば。







@だいじなことばだ、いっしょうものだ。


おかえりなさいをだから、言おう。






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