「・・・・・やっと捕まえたぞてめぇ」
新年早々実家にまで掛かってきた電話も軽く無視したし、年賀状もたった一人返さなかった。わざわざ遅くに寮に帰ってきて、その後は寝たふりを決め込んで訪ねてきても藤代に追い返させた。学校でもこそこそ隠れて部活ではいっそ爽やかな笑顔で打ち込んでみれば話さずに放課後まで居られるもの。



多分、怒っているだろうなとは笠井も思っていた。
この寒い中、寮の入り口。息も白ければ手も身体も凍える、冬の夜だ。
わざわざ居残り練までして時間をずらして帰ってきた自分を、待ち伏せしてもらえるなんて、流石の笠井だって自惚れてなんか、いなかった。


「電話にも出ねぇし年賀状もよこさねぇ。あげくの果てに一日無視だと?・・・ただの先輩だって、こんな扱い受けねぇだろ。・・・へこむぞ、マジで」
別にへこんでもらっても構わないと思いつつ、口にはせずに笠井は首のマフラーを外す。手袋とコートは少し考えてから、外さない事にした。身長は三センチしか違わなくても体格差はやっぱりあって、自分の気に入りのダッフルをきっと彼は着ないだろうと思ったから。
赤いマフラーを三上の首へと移動させ、凍えた指先は毛糸の両の手で包んでやった。息をはぁと笠井が吐き掛けて暖かさを求めれば、三上は少し顔を歪める。
「・・・・・ほんの少し」
それは寒さにも似た。
笠井の肩に頭を乗せて、白い息に乗せて。焦燥感に塗れた三上は呟く。
「不安にも、なったんだぞ。・・・くそ」
初詣の前から、胸に決めてた。一年の計でも何でも無い、他愛も無い誓いを、聞かれたら素直に言おうとは思っていた。
誤解させたい訳でも無い。ただ、笠井がそうしたくて。会ってしまったら、話してしまうから。だから、避けていた。それだけで。
温めていた掌から背へと笠井は手を回す。抱きしめてごめんなさいを言う。心底の気持ちを、笠井は言う。


「・・・とくべつになりたかったんだ」


説明出来る程それは明確な訳でも無い。笠井の小さな呟きを聞き留めても、三上は不思議そうな顔をするばかりで、ただ抱きしめ返すだけで。
胸の中の温もりを大事にしてくれてる事だけは判って、笠井は少しだけ泣きたくもなる。
「一番最初に言いたいなんて、そんな出来る訳無い事したくなかったし。意外と先輩人気者だし、藤代みたいなのに敵う訳無いし・・・やって負けてたら、ショックだから。・・・だから」
重ねられた同じ言葉に埋没なんてしたくない。
あなたのとくべつでありたい。
子供じみた感情はその分どこまでも純粋で、購えなくて苦労する。
「遅くなってごめんなさい」
年明け、休みも終わって寮帰り。始まった新学期に練習に、いつも通りの毎日が始まった今日だった。用心に用心を重ねて、今日の遅くに自分から言いにいこうとは、思ってたんだ。

木枯らしは年が明けても相も変わらず冷たいし、寮前の電灯はじじじ、と今にも消えそうな弱まり加減。三上は黙って笠井を抱きしめる。変わらない腕の強さとあたたかさ。好き、という気持ち。
安穏と、これを言うなら明けた年など何でもなくても。



多分、言おうとする気持ちだけが大事だ。





@さいしょじゃなくていい。せめて最後。とくべつに。


お正月、あけましておめでとう。年賀状、三笠へん。







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