そういえばいってなかった。




 はじめましてと僕らは。





桜の木の下、季節は四月。
少しのんびりと華めいた学校前の桜並木と、少し時間の余った空白の。初めてのミーティングまでにはまだ時間もあって、ふらり花弁に誘われた寄り道だった。いかにも春といった、何だか浮ついた気分になるそんな気候に背中を押された。桜も、笠井も。同類で。
一面の白にほんの少し紅を加えた、淡い世界は一週間ほどの命だ。
綺麗なんて言葉を吐く訳じゃない。
ただ笠井は見入って。見入って。他の全ての事を忘れて。
その一瞬、胸に浮かんだ言葉を形にするなら、きっとそれは。
「・・・わぁぁ」
そういう事なのだろうと、思う。



ぽかんと口を開けていると、風に乗って花弁が一枚、入り込みそうになった。
横目で追いかけはしたけれど、笠井は避けようとはしなかった。桜餅や桜湯、食べれない訳でもない。同じ大地に根を下ろし、真っ直ぐに聳える彼らに笠井はある種の尊敬めいた感情を抱いてもいたから、寧ろ彼らの一部を取り入れられるのは光栄にも思えた。
花弁はふわふわと、吸い込まれるように。
唇に触れる瞬間、逃げてった。
いや、正確には笠井が逃がした訳なのだけれど。頭を唐突に叩かれて。
「鯉かお前は」
唇との触れ合いを避けた花弁は、せめてもの思いで鼻先を掠めるキスをする。
擽りめいたそれに笠井は素直に反応し、っくし、なんて空気が漏れる、くしゃみ。
さようならを言うより、起こった事を理解する、そんな事を優先させる。それは性格だ。
笑いが混ざる声は、からかいめいた軽快さと余裕が、含まれている。
「子供みたいに見入ってんじゃねえよ。・・・ばぁか」
知らない人、だった。
振り向いて、手が届く、それだけの距離に居るのに。風と桜の花びらが邪魔して、良く見えないけれど。
見たことがないひと。
丸めたパンフがぽい、と捨てられる。あぁあれで俺はたかれたんだと、笠井は理解する。
「サッカー部新入生ミーティング、もう始まってるぜ。いいのかな・・・笠井、たくみちゃん?」
「えっ、何で俺の名前・・・っ、てもしかして、先輩ですか―――?」
入学式が終わったその半ドン後、特待で入った奴は集合との事。
サッカー部以外はそんな事無いとか、同じクラスの奴は言っていた。知っているならそうだと、単純な思考回路で口に出したそれだけど。
彼は、否定もせずに、ただ笑う。
黒髪に白の花弁が映えて、ぽっかりと浮かぶ。積もりそうな勢い、自分も同じようなそれなのかしらと。少し、思いも。する。
「いいの?行かなくて」
あっ、と思った瞬間、もう身体は動いていて。樹の下に置いておいたドラムバックを掴んで走る体制を笠井は取る。丸めたパンフはどうやら自分のものの様だった。もらったらすぐ名前を書く変な習性、判ってみれば不思議な事は無い。
多分彼はサッカー部のひと、なのだろう。
学校指定のジャージとは違う、前に見学しにいった時見た、その白と黒。
あのひと、サッカー上手いんだ。そう思うと、振り返らずにはいられなかった。紅色の風と花吹雪。遮られても、彼と。目が合った。
「あのっ、先輩―――!」
思えば桜に魅せられて、珍しい積極加減で口は動いた。名前。何ていうんですかなんて、唐突もいい所。酔っ払ったような、逆上せた頭は足取りにもはっきりと出ていて。何も無い所で躓いたりもしたけれど。
忘れんなよと言われて。頷きもしなかった。駆け出しながら。
何度も何度も口の中で反芻したのは、多分、まだ理由も無い。




思えば出会い、なのだと思う。
桜の木の下で。
けれど僕等は決してはじめましてなんて、言わなくて。




「よ」
「――――・・・っあー――!」
「ミーティング息切れしながら参加すんなよ。目立ってたぞ。・・・笠井、ちゃん」
同室になる早々友達になった、噂に名高い藤代誠二に引っ張られ、これまた「守護神」と呼ばれる武蔵森の重鎮、渋沢と顔見知りらしくミーティング終わる早々連れてかれて。ミーハ―気分を押さえつつ、慌てて頭を下げて、また上げた。その隣。
「さっきの!三上っ・・・せっ、先輩!」
「良し。覚えたみてぇだな」
「えー何なに笠井っ、三上先輩と知り合いしりあいー?何で何でー?」
部室の窓からでも桜は遠く、ぼんやりでも見えた。
色の無い彼は、三上は、楽しげに、新しい玩具でも見つけた顔で笑っている。騒ぎ始めた藤代に説明するのは随分な苦労で、背中には何だか嫌な汗を掻いて。苦笑する渋沢に酷く親近感を抱いたり。
風は遠く、桜の匂いを運んでいる。




薄く色付いたのは桜。空気、胸の内。
言葉にしないまま、また、春が来る。
こんにちわ。









@ファーストコンタクト


三笠のはじめての出会いはなし。何かいろんな処で書いている奴です。一番のあからさまなのはセックスと〜とANITHER×3.
ちゃん、とか今考えてみればありえない。









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