「終わりにしたいんだ」



何でもない声のまま、普段の口調に普段の歩調。
部活の帰り道、まだ空も明るさも残るのに月は出ていた。雲が広がっていたのは昼間の内で、今は山の端に形を潜めてる。一番星か飛行機か、何にしても輝きは色褪せない。地上を照らす街灯が点き始める様に、広がり始めた空にもその数は増えていく。
笠井はぴたりと立ち止まる。熱帯夜の続く、蒸し暑い夜だ。けれど秋の気配も漂わせる、夏の残り香のような、そんな夜だ。
「・・・・・そうですか」
立ち止まってみれば虫の声も聞こえてくる。風も何処か、涼しげだ。蝉の姿を見なくなったのは、そういえば何時からだっただろう。
笠井の返事に三上は少し驚いて、それから何だか変な顔で微かに笑った。
「そんだけか、オイ」
「先輩がそういうなら・・・・・俺、は」
「笠井」
笠井と呼ぶ、その声だ。
グラウンドでフィールドで、士気を喝を入れてくれた、何度背を押してくれたか判らない。キツイ口調に見せかけた、その裏にある信念や姿勢を笠井は知っている。
三上の事を、信じている。


「・・・お前の気持ちだって、知りたい。俺は」


明日も晴れるのだろう、月は真ん丸で陰り一つも無い。空を見ながら帰るのもいいと思う。
名前を呼んで、笠井も笑う。


「三上先輩」
「・・・俺も結構、勇気いってんだ。これでも」
「・・・うん、知ってます」


夏の終わりに、秋の到来。
街灯の明かりの前をふわり飛ぶのは、カゲロウ。柵に絡まりつく蔦の先には珍しい、カラスウリの白い花だ。花火の様な咲きほこり。
終わりの始まり。
悲しい事なんて何も無い。また歩き始めて、二人で曲がり角を並んで、曲がった。


「―――いいのか?」
「・・・そっちから言い出したんでしょ。今更」
「茶化すな。・・・お前の気持ち。まだ、聞いてない。から」
「・・・嫌ならきっぱり言ってますよ。そういう性格」
「そうだった」
「そうなんです」


明日の天気はどうなんだろうな。
そんな何気無さで、口にするのは確信で。松葉寮の前の街灯は、並んで歩くと影が重なる不思議さだ。
三上が言って、笠井が受けた。
玄関を潜った時から、二人の関係はおしまいになる。
始まりの。



「チームメイトなんて冗談じゃないっつの、もう」
「・・・こっちの台詞ですよ。もう」



二人が交わすのは変わらない軽口で終わりを知らない気安さで。
でも今日からは先輩後輩にお別れで、新しい関係がはじめましてだ。






@これもひとつのわかればなし。


騙されてくれたら嬉しかった。








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