意外に、寮で行き会う事はない。特にこんな場所だったら。




ガラガラ響く音に、驚いたのは二人同時だった。
「・・・あれ、三上先輩」
「お、珍しい笠井が遅風呂。この時間、あんま人こねーんだけどな」
「やー、ちょっと今日思いっきり足擦っちゃって。・・・最後の温いので、入ろうかなって。思ってて」
軽く引き摺りながら入ってくる笠井の足には、成る程見る方が顔を顰める、それだけの傷がある。
それなりに引き締まった太股に走る赤い線、それは一番新しいものに三上には見えた。
足首近く、膝小僧、残ってる傷は絶えてない。削られてんな。湯船に肩まで浸かり、三上はぼんやりシャワーで傷を洗う彼を眺める。
「・・・先輩、お湯まだ熱いですかー?意外と沁みるから風呂無理かもなんですけど、俺・・・」
「俺には温い。だからまだ熱い」
「・・・・何すか、それ」
「江戸っ子なんだ俺。熱くない風呂は風呂じゃねぇ」
基本的に会話は風呂には向いてない。
反響して聞こえにくいお互いの声、それでも「・・・年寄り」なんて笠井の呟きはしっかり聞き止めるのが三上たる所以だ。
洗面器をタイルに滑らせれば、見事に当たる。いい音が、響いた。
「いーたーいーっ!傷!傷に当たった!」
「ナイスコントロール。野球部からスカウトこないか、俺は心配だ」
「いっちまえー!」
怒鳴り声は響いて、その内に蒸気に消える。サウナじみた、時間の経った風呂場の空気は重みがあった。自然と二人、息切れめいて。水を飲んだりシャワーを浴びたり、身体を冷やして休戦だ。
蛇口を捻ったまま、ざぶり、三上は湯船から出る。
「・・・ちゃんと閉めないと怒られますよ。おばちゃん、節約節約うるさいんだから」
「笠井閉めといて。俺は出る。ごゆっくりー」
「・・・もぅ」
ひらひら振る後ろ手に、嘆息一つついて、何だかんだで笠井も言う事を聞いた。閉めたついでに湯船に手を入れれば、大分温い、笠井でも入れる温度。
今入れていたのは、水、だった。
「あのっ、先輩!」
がらがらがら。
ありがとうございますなんて言葉は、扉の向こうには届かなかった。
もう一度嘆息。それからそろりそろり、笠井は湯に浸かる。手で押さえたものの、傷はそれでもやっぱり沁みはした。
お陰で茹だりも、しなかった。



「・・・もう少し、さ」
湯船の中とガラス戸の向こう。呟きは同時で、やっぱり蒸気に消えて。
色っぽくならないもんかね、と苦笑したのはお互い様だ。






@ぬるいあいだがら。


いろんな意味でね!(笑顔)
せっかくの題材をこんな風にしてしまうのも珍しかろうと思ってました。うん。
でもあたしは好きなんだ。意外と。









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