今にも吸い込まれそうな晴天と、神様からの祝福の金色の陽射し。
もくもくと広がる入道雲。
噎せ返りそうな緑の香は、これもまた夏独特の。




暑中お見舞い





「・・・・・・・・・暑い」


最近の神様はサービス過剰。平均温度は体温並みの此処の所。
纏わりつく蚊がうっとおしくて、倒せないのにまた苛付いて。
ばたばたやっている姿は、傍から見ればそれはそれは、面白い事だろう。


「・・・何やってんですか?先輩」
「人間の尊厳とそのプライドを掛けた闘い」
「・・・はあ」


溜息が一つ漏れて。
じーじーじー。
油蝉とか確か言ったそれが、その大きな泣き声で攫って行く。


「あ。ちくしょ、吸われた。やっぱ片手じゃ殺せねーな、くそ」
「・・・・・・手ぇ、離せばいいんじゃないっスか・・・・・・?」


呆れた声。その下には成る程確かに汗ばんだ感触。
ぱっ、と手を離せばすうっ、と心地好さ。
風が間を抜ける。
気持ち良い。


「・・・・・・・・笠井」
「はい?」


きょとんとした顔が白い皓い入道雲を背に。
太陽を視界に入れて眩しいのか、微かに目を細めてでも微笑んでこっちを見ている。
屈託の無い返事と笑顔。
向日葵みたいだ。


「―――ほい」
「・・・は?」
「いーから。繋げって」


有無も言わせぬままにぐい、と掴んでまた歩き始める。
べたり、と。
汗ばむ手と手。


「せ、先輩?」
「・・・黙っとけって。ほら、行くぞ」
「はあ・・・・・・・」


空の蒼。
広がる入道雲。
繰り返す蝉の声。

みーんみーん、じりじりじり。

目を瞑れば感じるのはそんな声と風の音と痛いぐらいの夏の陽射しと。

べたべたする君の掌。


「・・・三上先輩、手・・・」
「んー?」
「・・・・べ、べたべたするからっ・・・恥ずかしい・・・…から・・・・・・っ」
「―――ああ」


その言葉にぎゅっ、と握りかえす事で返事して。
鼓動と体温が入り交じって、また違う熱さの中、ぽてぽてと。
二人で。


「・・・手を握るだろ」
「はあ」
「んで、このくそ暑い中のその行為を我慢して長時間やる事によって、それを止めた時の清涼感は倍程に感じる訳よ。判る?」
「・・・・・・まあ一応」


随分歩いた先での、随分なその態度。
思わずなんだ、と呟いた。
手は離さずに。


「じゃあ先輩は誰でもいいんですよね、つまり」
「は?何が」
「・・・・・・手を繋ぐの」
「ばーか。そんなのお前だか―――――」


・・・それは、一瞬の間。
みーんみーんみーん。
残暑の真っ青な空に蜻蛉の赤が紛れ込んで。
変なコントラスト、でも素直に綺麗だな、と。


「・・・・・・続きは?」
「――――・・・うっせぇな」


熱い陽射し。
熱い夏。

あつい僕等。




「おら、ちゃっちゃと歩くぞ」
「はぁーい」
「・・・ったく、あちいなー。まったくよう」
「嫌になっちゃいますよねー」


蜻蛉がすう、と目の前を横切って、開けた視界には空の蒼と雲の皓を背負った松葉寮の姿。
無意識で顔を見合わせて、それからわざと優しく笑って。
頬の赤味は気の早い赤蜻蛉が全部持っていってくれたから。

暑いなあ、と呟いて。
寄り添う辺りがやっぱり何処か、夏嫌いなのかもで。





@あつがり、ひねくれて。


もう本当こんな話は書けないと思った。
奴らは温暖化の確かな原因だ。






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