「おばちゃーん。金ここ置いてくぜーっ」
「あいよー」
「もらってきまーす」



暑中伺い。






ありがとねーっ、と後ろ背に響く妙に甲高い声。
それを受けながらぽてぽてと歩くアスファルトの路。
陽射しは何時も通りの、真夏のそれ。


「笠井、何にした?」
「ミルクバー。甘いの、何か食べたくて」
「・・・今は雪印危ないっていうぜ?腹壊しても俺、看病しねえからな」
「元々そんな事する人じゃないでしょ」


違いない、と言って笑う彼の手には六拾円のガリガリ君。
横目でそれを眺めながら、でもそっちの方が正解だったかな、と小さく思う。
照り返しの道路から与えられる熱は、草木もへなる、そんな風。
とにかく暑い。
でも今はもう残暑、暑さ寒さも彼岸まで。


「垂れてるぞ」
「えっ、あっ、やば!」


言われてみればべたり、と掌に流れる白い蜜。
思わず舐めて、溜息一つ。
シャーベット系なら、こんな事にはならなかったのに。
ぷう、と数分前の自分を怨んで。


「―――それ、美味い?」
「・・・溶けちゃったから、少し甘い・・・かな・・・・・・」
「ふうん・・・」


しょんぼりしたままだから、ミルクのそれは地面に少しずつ垂れて行く。
けれどそれが気にならないくらいに何となく落ち込んでいる。
じりじりじりじり。
これはきっと暑いから。
夏はあんまり好きじゃないのだ。


「笠井」
「・・・え?」
「―――ちょっとくれ」


ぐい、と手を掴まれて。
気付いたらぺろり、とした感触が。
みーんみーん、かなかなかな。
・・・蝉が近くで鳴いている。


「甘」
「・・・だから最初に言ったじゃないですか・・・」
「あーあ。これで死んだら笠井の所為だぜ」
「―――・・・大丈夫でしょ。三上先輩、腹と面の皮、厚いもん」
「・・・・・・・喧嘩は買うぞ。コラ」


きゃあ、と言って熱い道路を駆け出して。
アイスを咥えて目の前の坂道を全速力で下っていく。
受ける風は二人分。


「暑いっスね―――っ!三上先輩―!」
「そーだなー!オラてめ待て――――」
「へへーんっだ!」


暑い暑い夏。
走った所で感じるのは蒸し返るような熱気、だけ。
それでも流れる汗が心地好く感じるのは、それはきっと。
きっと。


「・・・・・・・捕まえたぞ。てめえ」
「きゃーっ、三上先輩怖―――い」


炎天下の中くっついて、ぼたぼたと汗が落ちるぐらいな現状に。
二人で小さく吹き出した。
あはは、と。
蝉も負けず、と鳴き始めて。

みーんみーんみーん。

じりじりじり。

暑い夏。


「・・・夏も悪くねえ、かな」


ぼそり、と呟かれた言葉。
それを返事する代わりに、彼の手をすっ、と取って。
走り始める。


「行きましょ?」
「・・・ああ」


にぃー、とまた二人、笑って。
アイスの棒はその辺の草原にぽい、と。
風を斬って、走る。
夏色の風。


「あっちいなぁー」
「ほーんと、ったくねー」


けれど判ってる、もうすぐ終わるこの季節。
寝苦しくも無く外での練習の負担も減ってアイスも溶けない、良い事ずくめ。
それでも、何となく。
・・・何となく。


「―――でも・・・ですね」
「・・・ああ。でもな」


それも良いかななんて、どちらともなく呟いて。
夏が嫌いな筈の二人が二人、揃って思い切り吹き出した。



夏色の風に乗って蝉がふらり、と飛んで行く。
・・・・・・あてられて。






@熱い、暑い、あつい。


グッコミで15部しか出しませんでした。挨拶代わりの割りに身内にも届きませんでした。
4年前です。殺してくれ誰か。
もうこんな文章書けないんだろうなぁと思います、よくもわるくも。







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