「決まった仕事も、何やら順調な様じゃないか。おめでとう」
思いもよらぬ素直な祝福など、裏があるんじゃないかと疑わずにいられない。
隠しもせずに怪訝な顔をすれば、彼は何時もの宜しくない不敵な笑みをした。どうやら予想済みだったらしい自分の反応。アリガトウゴザイマスと片言で返す。彼は気にせず、スルーする。
「今までと違って、気を引き締めるべくな毎日だ。くれぐれも休日は有効に使い、身体に気をつけたまえ。…なんだ?随分と変な顔をしているな。私がお前の身を案じたりするのが、そんなに不思議か?」
来る者は選び、去る者は追わない人間だった。
そうでなければ今の場所に居られない、高みなど目指せる訳が無い。ずっと見ていたのだ、そのくらいは理解している。―――だからこそ、新たな身の置き場を選んだ自分に、今更掛けてもらえる言葉などある筈無いのだと知っていた。
怪訝を通り越し、固まったままの自分に、彼はしょうがないなと肩を竦める。
山の様に積まれた書類の上を通り越し、伸ばされた掌は肩に、触れた。
焔の様に暖かかった、その掌を差し出された意味を理解なんて出来や、しない。
「…私の目が届かないからといって、無駄に過ごしたら承知せんぞ」
言葉の厳しさ、声質の重さ。けれど込められた意味の、その優しさ。
「手駒が少ないとチェスも出来ん。お前の仕事は大事に取っておいてやるから、安心して行って来い」
側を離れた。新しい職を得た。けじめとしての挨拶を、して頭を下げた自分にそれでも尚掛けられた、言葉の意味。
汲み取ってしまえば後はもう、何時も通りに答えるしかなかった。
背筋を正し指先揃え、sir!と声を張り上げて、唯一無二の上官に心の底から敬礼を。だからした。
@いってきますはおかえりと対だから。
でも、ハボックに見せかけて、実は那月のです。
那月の、しゅうしょくおめでとう。大変そうだけど、おめでとう・・・!
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