しばらく休職する事になったとは言え、名声も経歴も無くなる様な人でも無いので何の警備も置かないでいる事は出来なかった。
 ただ門の前に常に軍人を張り付かせているのも、住宅街の中の小さな家に潜める様に暮らしている意味も無くなってしまうというので、彼に近しい、ついでに警護も出来る人間が仕事の一環として通う様になった。
 引継ぎの件もある、でもそれだけじゃない感情も含めて大体はリザがその任に付いた。朝の仕事前に訪ねて、そのまま司令部に赴き、書類や情報を持ち帰り彼の家に寄っていく。そんな日々が三日も続いた所で、なんでもない顔で彼が言うから、素直にリザも頷いた。夜も共に居られるのは彼にとっても自分にとっても、安心だったから。



 一緒に住む事に抵抗も無いのは、其処に何の色も付いていないのを知っているからだと思う。
 嵐対策に滅多に被らない帽子を被り、コートを羽織り始めた自分とは対照的で、彼はといえば靴下さえも履いていなかった。寝起きのままのだらしが無い格好のまま、相変わらずに珈琲を啜っている。鏡も一度くらいは見たのだろうけど、寝癖は未だ直っていない。普通の、生活が出来ないひとだ。一人で良くもまあ今まで生きてこれたものだと、共に暮らすようになってからリザはもう何度心中で溜息をついた事だろう。
 外に出る準備と覚悟が整った頃には、彼は新聞にすっかり見入っていたものだから、いってきます、と声を掛けるのは少し躊躇う。錬金術師としての彼の側面は自分も知っている。言葉を飲み込んで、ドアノブに手を掛けたのと掛けられた声と。それはまるで同時の様だったから、だから少しだけ正直。驚いた。
「・・・早く、帰ってきたまえよ」
 それは多分、相当の士官へとなり得た者だけに許される一流のジョークだ。
 そう判断したからこそ、さらりと言ってのける事が自分も出来た。
「この家を仮司令部として設置致せと、それはご命令で?」
「要らん。むさくるしい男の顔なんて見たくない家に一歩でも入れたくない。・・・君だけでいい」
「相手を喜ばせるコツをさすが良くお判りで感心致します。相変わらず本心を隠されるのがお上手ですね。・・・私一人で寂しさが紛れるんでしたら、苦労、しません。大佐」
 扉を開けると窓から見たままの横殴りの雨だった。
 彼からの返事は戻ってこない。雨音に吸い込まれた、ただそれだけなのかもしれないけれど。浮かべたままの笑みを深くして。今度ははっきりと口にする。いってきます。


 気が向いたら、番犬の散歩でも行ってくれ。
 閉める瞬間、耳に届いた独り言。普段はしない敬礼に合わせた返答を、軽やかにしたのはそれは彼の口真似だったから。








同棲しててもそれでも、うちの基本はさんにんなので。
ハボックが好きなんだよ、みんな。(あたしが好きだから)






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