それは最初、何食わぬ顔で他の郵便物と混ざって中央にやってきた。

 司令部への郵便物は大きさ種類を問わず、その量は文句なしに多いので、まず一箇所に集められるのが通例だった。
 個人名義のものでさえその部下がまず最低限のチェックをし、それから担当箇所もしくは担当官へ回って当人へと渡される。階級が上になっていくほど、その検閲の回数が増えていくのは言わずもがなだ。何の指定も無い不意に訪れた旧友の便りなど、手元に来る頃には原型を留めていない、そんな出来事さえ茶飯事な、そんな国だった。
 郵便物に携わる官は、司令部でも現地でも無い、この紙束の山こそが戦場なのだと豪語して、やまない。
 実際に爆破テロも少なくても二月に一度は起こり、仲間の顔ぶれはどうしょうもなく定期的に変わる。
 青っ白い腕だと揶揄された。銃一つ撃てないで何が軍人だ。中傷は甘んじて受けると決めた、ソレは自然と生まれたこの場所のルール。激昂も憤慨も、した処で仕事の量は変わりはしないのだ。
 今日とて今日とて山の様に積み上げられた配達物。変わらないその量に今日も溜息を吐きながら、とりあえず手元の、幾分郵便としては大きめの箱をふと、手に取った。


 手にすると、それは唐突に暴れ出し。
 気のせいでないなら今にも中から何かが飛び出てきそうな、不可思議な奇声さえ耳に届いた。


 瞬時に投げやって遠巻きに、かつ持ち前の責任感でどうにか凝らした目にはマース・ヒューズ宛となっている。
 元より先に確認していた消印は東部のもの。送り主がうっかり想像がついてしまったのも、ある意味自分の不幸だったのだろう。中身のこの理解しがたい動きもどうにかどうにか、理解してやってもいいと考える事が出来てしまったのも。田舎者はやる事が違うんだ。あいつらは何時もやりすぎなんだ。心の中でそう呟きながら、勇気を持って踏み出した一歩。それが酷く長く、重かったのを、実際酷くはっきり、覚えている。
 箱に手を掛け、ガムテープで閉じられた封を破く動作。全てすべてプライドの背中押しだ。なんだろうと、何が起ころうと、まずは自分達が盾になる。ここは戦場だ。それを豪語する、声高に叫ぶのは本当は皆、少しだけ何時だって怖いからだ。
 袋の中からまず最初に出てきたのは、爆弾なんかでは無く最近出た雑誌のオマケの箱だ。それを叩きのめすかの様に、中の「なにか」は暴れている。すぅ、と息を吐き、指をかけた。怖さは今更、消えている。ただ思い出したのは、今度の休日、娘のピアノのコンクールがあるという、そんな他愛も無いやさしいこと。
 開いた蓋から響き渡ったその声はいっそ、呆れかえる程そのやさしい情景を叩き潰した。


「私はロイ・マスタング!地位は大佐だ。そしてもうひとつ焔の錬金術師!事情がありこのような小さな姿をしているが、覚えてなくてい―――」

 ばたん。
 無言で閉めた。
 いつの間にか隣に座っていてくれた戦友もまた無言で、その箱を最初よりもっと容赦なくぐるぐる巻きにしてそっと元の袋に戻す。まだまだ元気に袋は一人で跳ね上がっていたけれど、適当にその辺のダンボール(エリシアコレクションZ〜おやすみMY★エンジェル〜と張られている箱だ。基本的に一度外にぶち巻かれたヒューズのラブメモリーは閲覧禁止になっている。見てると彼が仕事をしないから)を乗っけてやればその内に静かになったから安心だ。
 早々に郵送業者に電話して、急いで持って帰ってくれと言おう。とんだ間違いだ。ああとんだ。…ほんとうに、東部の人間はやりすぎだぜ。心の声は決して外に出てなんかいない筈なのに、隣の戦友は実にいい汗を拭いながら、爽やかに頷いてくれた。輝いていた。
 何だか酷くすっきりした、一つの仕事をやり遂げた達成感に背を押され、空を仰いだ瞬間、もう一つの厄介ごとにふと気がついた。…気がついて、しまったというか。
 恐れ多くも上官、佐官様の郵送物を勝手に破いて独断で送り返すとはなんて見事な不敬罪の出来上がりである。軍法会議所に引っ立てられてもそれなりに反論出来るつもりは勿論あるけれど、悲しいかな縦社会。真実なんてどうでもいい。そう、どうでもいいのだ。何だって。
 雑誌の付録の箱は、中央でも彼の人物のファンは多いから何処かしらに当たればきっと手に入る。その中にそう、適当なものを押し込んでおけばいい。そう例えば今偶然に目に付いた、軍のアピールの一環として作ったと言われる、さる佐官による熱唱の軍人応援ソングの入ったMDだって、何でもいい。つい先日不審物として没収したばっかりのそれは、小さな付録の箱にすっぽり収まった。適当にその辺にあったテープと一緒に入れてみたら、元からその形だったかの様にぴったりになる。後はリボンでも、ってあまり手を掛けるのも不自然かと思いなおして、セロハンテープでもそれなりに形は出来て、それなりなプレゼントに見えるそれに、ふぅ、と気持ちのいい息を吐く。それは今度こその、一仕事後の、晴れやかな晴れやかな。ものになる。
 郵便の山の一番下、いつの間にか埋もれてしまったガンガン付録のロイの箱は、静かに静かに潰れているのを、気づくには少し気が抜けた、一仕事後の爽やかさ。


 声はいつの間にか、そういえば聞こえなくなっていた。





@ロイマスタングを急に送り付けないでください。驚きます。



誕生日に送られてきたから驚きました。
ガンガンのロイスイングの付録の箱の中から、ロイマスタングの曲が入ったMDとハガレン放送局のテープが出てきたから、驚きました。

くやしかったので書いたら、うけました。よし。

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