2月の誕生日って、実際外れの部類だと思う。


女の子のメインイベントは一つだけだし、中学生の財布の中身も限られているのはお互い様に承知済み。終わった後は店のディスプレイも外されて、次の日からは今度はこっちが贈る番だ。
別に拘るつもりはまるで無いけどと。近藤はちょっと息を吐く。
ちょっといいなと思ってた子に、三上くんにって頼まれたくらい、別にいいけど、ちょっと来る。


「近ちゃん、どしたの。黒いよ頭」
「・・・日本人ですから!」
へたっていてもボケずにはいられない、こんな性格は自分でも結構好きだ。
「いやそうじゃなくて。背負ってる空気」
ボケを素で返す、お見通しな友人は諸悪の根源。
別にそれでも2月の14日、学校もあるし部活もあるし。男女別棟の校舎内はそんなもの関係の無い黒い群れ。元々あんまり縁の無いイベントなんだと、一日小さくなってるのが良いんだろうと考え直す。
校門前で渡されたチョコを三上にほい、と手渡して、その苦い顔を笑って眺めれば少しだけ気持ちが晴れた。屋上の風が気持ち良く、笑い声を攫っていく。
それに何時しか二人分。自分の分と、声変わりなんて縁の無い、鈴の音なんて今時聞かない。女の子のくすくす笑いがそれに混ざった。
「・・・よ」
見れば別校舎のその金網に、見慣れた女友達の姿がある。
足を向けて気軽に手を上げれば、途端に平べったい物が数個飛んでくる。三上くんに。判ってる事は、改めて言わないで欲しい。近藤はそう思う。
「おめー投げんなよ馬鹿。折角の包装が台無しだろ」
「大丈夫大丈夫!型崩れしにくいのばっかだし」
「や、そういう問題じゃねえだろ・・・」
心底呆れた顔をする近藤の横に何時の間にか現れて、三上はひょいひょいとそれらを拾う。「悪いけど皆で食うぜ?」悪びれてもない普通の顔に、彼女はにぃー、と猫の様。
「ごめんね無理に渡しちゃって。あたしにも色々立場ってモンがあってね・・・あ、その緑のあたしの。食べてね甘いけど!」
「・・・あれ、俺・・・に、は?」
無いんですかねせめて義理とか。
それなりに仲良くなってるつもりの、思っている事をぽんぽん言い合える気の強いこの女。
満面の笑みはそのままで、彼女は胸に手を当て広い空を見上げた。

「乙女の財布は大変なのよ、近藤ちゃん」

知ってるでしょ?なんて綺麗に言うからそっぽむく。。三上にはやるくせに、この野郎だ。別に欲しい訳でもないけど、何となくくれるかと思ってた分少しは。そんなだ。
強がりやせ我慢、何だか今日は良くしてる。重い口は、それでもちゃんと動いてくれた。
「いっけど別に。俺の好みは、も少し大人しめの女の子らしい―――」
「優しくて小柄でちょっぴり天然で」
「部活の後、駆け寄ってタオルなんか渡してくれたらもうサイコー。だっけ」
すらすらと後を告げられたお見通しな頭の中、何だか怖くなってちらり横を見れば、「舐めんな悪友」なんて三上がにやり。正面向いたら、腰に手を当てて、彼女がふふんと笑っている。
「可愛くなくて悪かったわね」
憎たらしく笑う姿が、可愛いなんて言うのはちょっと。ちょっと悔しい。
わざとらしくまた顔を背けて、じっとりとした視線で空を見た。綺麗な蒼が、何だか白く曇ってみえた。
柄にもなく、落ち込んでんだ。初めて、気づいた。


「・・・確かにバレンタインデーも大切だけど」
彼女の声がまた風に乗ってきたのは、それから少し後。
二月、目ぼしいイベントと言ったらそれぐらいだと近藤はずっと思っていた。
貧乏くじを引いて生まれてきたと、思ってしまうのもしょうがなかった。
チャイムに掻き消されそうになりながら、良く通る声は耳に心地良く広がった。


「誕生日の方がもっと大事よ?」


財布の割り振りは決まってるのよ、とスカートを翻して彼女はバタバタと駆け出した。次の時間は体育とかそういえば言っていた、残されて近藤はぼんやりとその場に立ち尽くす。金網を乗り越えて、彼女を追いかけたい気分に、つい駆られる。隣から聞こえる噛み殺しきれない笑いは裏拳でさよならだ。
「・・・義理なんかで使ってるお金、無いんだってよ」
「・・・やっぱそういう事か、な」
「そういう事でしょ」
バレンタインは女の戦場、二月の誕生日なんてだから外れ、めいていると。思ってた。
逸る動悸は思わせぶりに、去っていったその背中の所為で。今だ笑ってる三上の、所為で。
可愛いなんて思ってしまったその理由、軽く入れられたそのジャブのお返しは。


一ヶ月後ではなく、2週間後。二人で決着つけましょう、だ。




@にぶちんにあげるものなんてなくってよ。


すいませんオリジナルキャラで。でも何でもいいから近藤はおんなのことつきあってほしいんだ・・・!
しかも続きます。(えー)


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