「わー」
実際の話、滅多に見たこともないそれと滅多に話すこともない彼に一歩退いてたのは紛れもなく本当だった。


「・・・可愛いね」
「・・・・・・だろう」
一軍控えへと先に昇格した、ここ武蔵森でも珍しいマンツーマンのスペシャリストを目指す独特の雰囲気と技を持った、同じ年の違うポジション。
ボランチとサイドバック、近いようで遠いお互いは、クラスも違うし部屋も遠いし、意外と縁も薄かった。入学してから早半年、交わした言葉は数度程。そのぐらいの記憶と知識しか、笠井竹巳は目の前の愛トカゲを差し出す彼―――間宮茂に対して、正直持ってはいなかった。
「―――ジョセフィーユは」
灰色の身体をしてるのはケースに入れられた石の色。赤い舌がちょろちょろ出てて、遠巻きに眺めていると結構怖い。そしてそれを大切そうに抱えて、ジョセちゃんがいかに淋しがりやで繊細かをぽつり、ぽつりと説明する彼の友人も―――結構。正直。まぁ、そんなトコで。
要約すればたった一言、明日の朝一で実家に戻るから、一日面倒見てくれないか。ただそれだけの簡単な事。
取りあえず有無を言わさないそのプレッシャーに思わず頷いてしまってから、笠井は軽く首を横にする。
「・・・聞いてい?」
こくん、返って来るのは頷き一つ。
素直なんだよなぁ。小さな発見、そんなの一つ。
「―――何で俺な訳?」
「・・・・・・・・・・・」
「だって間宮、あの、そのジョセ、ちゃん。大事なペットなんだろ?もっと仲良い奴とか信頼出来る人とか、ほら渋沢先輩とか―――」
言ってから笠井も固まった。思い出す、何時だったか地震でこのケースが壊れて逃げ出したそんな一件。一日、渋沢先輩はベットの中から動かなかった。他愛も無い、そんな一件。
言葉を止めて、たらり、嫌な汗を掻いた時だった。
間宮がすっ、とケースを差し出して。反射、めいたもので、受け取ってしまったのだって、そんなの誰だって。当たり前の事だった。
間宮が何か言おうとしたのと、笠井も言葉を続けようとしたのと、部屋のドアがばたんと勢い良く開かれたのは、同時のそれ。

「―――わっ、何ソレなにそれ!かーわーいー!」

奪い取りとも言えた藤代へのケースの授与は酷く自然に出来て、藤代の声には何の惑いも無くて。
発音上げろよ!なんて突っ込みも飲み込んで、つられて覗き込んだケース。最初の変な警戒心はもう無くなって、笠井の目に映る、意外と大きな彼女の目。
「・・・うん、可愛い」
お世辞とか付き合いとかそんなんではなく、身体をぺた、と石にくっつけ、眠っているその姿を見て、すとんと肩の力はもう抜けた。
退いてた一歩が縮まる感触、も一度呟いて可愛いね、と顔を上げれば。
「―――だろう」
笠井の目に映るのは、珍しい彼の笑い顔。
可愛いね、なんて言ったら怒られるかなと。思ったから笑って誤魔化した。
それは確か、まだ一年次。仲良くなり始めたのはそういえばその辺からだった。



「・・・別にいいけどよ」
親戚の結婚式や実家からの呼び出し、周期的には年に数回。間宮が寮を離れる時のガラスケースの移動は笠井の部屋がすっかり固定になった。
藤代が襲撃して、追い出された形でトレードの様に足を運ぶのがすっかり固定になってる三上はそんな時たまの事を今更責める気も無く、それでもうんざりした様な顔を素直に見せて、ベットの端に腰掛ける。
「何でお前が預かんの?」
「頼まれたから」
「・・・そういう事じゃなくてよ。判ってるくせに流す癖、悪趣味だぞ。笠井」
先輩には負けますよ、なんて言ってやろうと思ったけど面倒だからやめておく。
向かっていた課題の手を止め、椅子をぐるりと回せば意外に真っ直ぐに目が合った。
「動物好きの奴に悪いやつはいないそうなんです」
「・・・・・は?」
「だから、大事にしてくれるかなって。最初にそう、言われた」
ふと、思い出す昔の事。
あの頃はまだこんな風に、何でもない空気を二人で共有出来るなんて思いもしてなかった。
先読み、当たるよ。帰ってきたら間宮にそう言ってやろうかな。そんな事を思いながら、出来る限りの笑顔で優しい目で、三上を見た。

「・・・おっきい犬も我侭な猫も、手懐けちゃうんだから、動物好きなのかもね」

ちちち、と指を振れば一瞬の間の後笑われた。
バカ代と同列かよ、なんてぶつぶつ言いながら、三上はすっと立ち上がって。
猫みたいな軽やかさで、笠井の元まで寄って来た。


ジョセちゃん少し目を瞑ってて。そんな事をうっすら思って横目で見遣れば、大人しく寝てくれてる躾けのなった、いい子だった。





@わるいやつじゃないね。


四邑さんにおしつけた、間宮と笠井はなかいいんだぞ話。
久しぶりに見たら三笠も混ざっててびっくりしたじゃないか・・・!(忘れるな)

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