買い物に出たといっても向かった先は近くのコンビニ。
毎日練習漬けの日々、そんな中の一日与えられた掛け替え無い休み。だけどそろそろ宿題を片付けなければ大変にヤバイ夏休みの日程の上だからお気楽に遊べる者など普通、あんまり。しかも大体がスポーツ特待で入ってきた奴らで、つまりは体力馬鹿だから。だから、居ない。
かといって暑い寮内ではロクに集中出来ないのも本当で、渋沢は気分転換と称してコンビニへと足を運んでみた。


アスファルトの照り返し、相変わらずの高くて青い空。
けれどカレンダーを捲るのはもうすぐで、季節の移り変わりは色んな所で準備されているのを感じる。
何時しかぱたり、と減ってしまった蝉の声。替わりの様に蜻蛉が飛んで、地面に転がるその姿を悼むかの様に奏で続ける虫達の合奏。
子供の頃は2週間も生きられない、蝉が酷く可哀相だと思っていた。
田舎の祖母の服の裾を掴んで掴んで、蝉の様に泣いた。泣き続けた。初めて捕まえたそれが、虫篭の中で転がっていたその朝。
聞こえたのは溜息、感じたのは大きな掌。何時も大声で叱りつけて厳しいばかりの記憶の中の祖父の顔、その時ばかりは酷く、優しかったのを。覚えている。


「なんだ、渋沢。お前も買い出し?」
クーラー求めてナンボか涼しい内にふらふら図書館へと移動したメンツが気付けば皆、コンビニの前に勢揃いしていた。お約束の様に口にアイスを全員咥えているので、少し笑える。
「キリねぇから帰ってきた。丁度良かった」
そう言いながら、にっ、と中西が笑う。ガリガリ君を持つ、その反対の手。
皆で100円出し合って買ったんだ。
花火セットを見せ付けられて、ん、と差し出された手に文句も言わずに100円を置いた。寮に残る三上と笠井からもぶんどって、そうして丁度の大型サイズ。楽しみだな、と笑う根岸の顔につられて渋沢も素直にくすり。
中に入って早々にアイスを三人分選んで戻る。涼しい店内に後ろ髪を引かれたのも本当だけど、何となく。どうせ帰る場所も同じで10分もしない内にまた顔を合わす事になるけど。それでも。何となく。
自動ドアから出る瞬間は酷い熱気に包まれた。中に入る時横目で見た、皆に分け与えてほとんど無くなってた辰巳のアイスの実は根岸のパピコの半分と何時の間にかに替わっていた。
食べ終わったアイスの棒、それでも惜しむ様に口に咥えながら近藤がふと、言った。
気分転換にサッカーしねぇ?
中西も高田も、サッカー馬鹿だねと、笑った。大森なんてずしり、と笑いながらその背に乗っかってやっている。あちぃよ、なんて言葉だけ聞こえた。嫌がりは、しなかった。
誰一人返事もしなかったのはきっときっと、自覚済みだったからだ。
多分僕等は、類友なんて言葉が酷く似合う仲なんだろう。


精一杯、生きれるのは幸せだ。
アスファルトの上をじりじり泣き叫びながら暴れる、それでもまた飛び立つ力がもう無い蝉を、渋沢はそっと掌で包んで近くの木に添える。
きっともうすぐ消える命の灯に、そっと。頑張れと言った。
頭に過ぎる祖父の声。あの時は鼻を啜って、判るな。なんて問いかけにぶんぶんと首を振ったものだけど。
精一杯、頑張れるのは幸せだ。
気付けば松葉寮は目の前に迫り、入り口に転がるボールを捕まえながら寮内に残る友人達の名前を大きく大きく、呼んだ。


サッカーしよう。
最後の悪あがきの蝉の声に負けない様に、蝉の様に、大きく、鳴いた。



@まいにちぼくら。サッカー日和。


暑中見舞い、森メンツより。
(三笠の「茹で上がり」と多少リンクしております)
彼らの日常の一コマが、こんなんだったらとても嬉しい。仲良くあればいい。





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