五時間目、お昼の後のうたた寝タイム。
 そんな風に思っているのは勿論生徒だけの不文律で、教師が前に立ってテストに出すぞ!とがなっている中、堂々と机に突っ伏して寝入る度胸がある奴なんて、実際の話はそうは、無い。
 自分の親友がそんな希少価値のある人間だというのを、誇っていいのかは笠井が決める話じゃない。
 ただチャイムの余韻がまだ残る教室で、未だ起きる気配も無い親友の代わりに、国語教師からぎろり、睨まれるのは理不尽だ。それくらいは決める。決める権利が、笠井にはある。
 多少の八つ当たりもこめて、乱暴に、笠井は藤代の身体を揺する。
 怒鳴り散らす必要が無いのはいい。
この、授業という時間は全て睡眠の為にあると言い切っている人間を起こすにはたった一つの魔法の呪文でいいのだ。耳元で囁く。そうすると途端、飛び起きた。前髪が変に片側へ寄って、頬には奇妙なスジが出来てたりしたけど、藤代の目は決して寝ぼけてなんかいなかった。
部活、遅れるぞ。
魔法の呪文で起こすのはいいが、今度は今にもグラウンドへ飛び出していきそうな親友を、HRの間だけでも机に縛り付けるのもまた、笠井の役目だ。残念だけど。


「へぇ、今そんなのやってんだ」
「…お前にふった、俺が馬鹿だったんだ。いいよ」
 HRも終わって、掃除を何時も通りに逃げ出して。校舎の廊下を二人で歩きながら、窓から見える、外の植木の揺れ具合にわぁ、と声を上げる。
 今日は風邪が強い日で、グラウンドも砂塵が凄い。その、窓ガラスに当たる風のうねりが、今日国語でやった宮沢賢治の文に良く似ていた。思わず笠井も口に出して、爆睡していた藤代に話を振ってしまうほど、良く似ていた。ごっごごごごぅ。
「…まぁ元々、本の内容とか覚えてないもんね藤代。宮沢賢治、っても、俺がよく読んでるってのも知らないでしょ」
 溜息と共に言葉も吐き出せば、藤代はなにおぅ!とドラムバックを振った。
「俺だって少しは覚えてる!えーっと、あの、舌噛みそうな名前の子どもがどっか行くはなし。とか。か、かか、かむらむねだ。」
「…もしかしてそれは、カムパネルラ、かい」
「そう。そうそう。かめば寝れるだ。なぁ、ジョロンジョ」
「もういいよ」
 名前はおそろしく違うとしても、たしかにその二人の少年の旅のはなしは自分が読んでいたものだ。
 放課後、夕焼けが大分早くなった頃。教師に呼び出されて説教を受けている藤代を待ちながら、読み進めていた銀河祭。戻ってきた藤代にずいぶんと強請られて、グラウンドに向かう間、ほんの少しばかり話してやった、それだけの。
 銀河の駅を、どこまでもどこまでも行く二人と、夕焼けに染まって、グラウンドに向かってどこまでもどこまでも走ってやる自分達と、ほんの少し、ダブって見えたから。それだけの。
 藤代は数歩ばかり早めて歩き、くるりと振り向いて、まるで向い合わせに座る様に顔をあわせて。
 にこりと笑った。
 さいわいを噛み締める様だと、笠井は思った。

「僕達、どこまでも一緒にいこうねぇ」

 言った藤代はすぐにくるり、と踵を返して、グラウンド、まずはその手前の昇降口へと駆けて行く。ドラムバックが揺れて、少し開いたファスナーから使い込んだジャージが飛び出しそうだった。そんな心配なんかをして、笠井はその場から動けなくなった。
 一緒にいこうねぇ。
 他愛も無い言葉だと、思うには荷物が重かった。足が重かった。藤代の足が、速すぎた。
 ごっごごごごぅ。
 窓ガラスを揺らす風の音は、嵐の様に笠井の耳へと届いている。




@ああ、カムパネルラ、きみもこんな気持ちだった?


10月に、本当は銀河祭、という国民の祝日が出来るはずだった。そんなトリビアより。
この言葉、サッカーを絡めて、藤代という存在が吐いたら相当重い、そうして酷い言葉になったと思います。
銀河鉄道の夜では、取り残される側のジョバンニが言った台詞なんですが。
藤代と笠井のコンビで書いたのは、別にTO三月さんという媚ではなく、そもそもこんなほの暗いの嬉しくないよ!っていう話で。
(結局どういう事なの)
(中西と根岸だと、そればっかだったから止めたんだよ)
(結局それかよ)





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