「何度も言ったし何度も言うが、今度こそこれは最終通告だ。今すぐお前の着ているそれを脱げ」
背中を丸めてコタツに入り、だらしが無く顔を緩めてこの世の幸せを噛み締めている友人を見下ろしながら、三上は絶対零度の声で今日何度目かの言葉をまた繰り返した。



「・・・なぁ三上。同じ部屋で三年間暮らしてる仲だろう。俺もお前もお互いのプライベートや踏み込まない領域というのを知っている。お互いの人権の尊重は共同生活での一番の―――」
「何かもっともらしい事を言うならコタツから出て俺の目を見てからにしろ渋沢」
「・・・寒いじゃないか」
「俺より二枚は厚着してる奴が何言ってんだ!大体何度言えばわかるんだ!背を丸めんなどてらを着るな!守護神って崇めてる二軍三軍の奴等が見たら泣くぞ!辞めるぞ部活!」
「―――そんな軟弱な精神の奴なんてサッカー部にはいらない」
「・・・・・・今のお前にそっくり返してやるよその言葉」
秋の終わり、冬の初め。
その曖昧な境界、丁度学校の桜の葉が色付き始めた頃。渋沢と三上の恒例の言い争いは三年目の今も健在だった。
「・・・何も俺はそんな難しい事を言ってるつもりはないぞ。なぁ」
相も変わらずコタツで丸くなる渋沢の肩に三上は手を置いて、大袈裟にかぶりを振る。
誰だって寒いのは嫌だよな。そう三上が笑えば、渋沢もうんうんと頷いて笑う。背は丸いが。
三上は掌にぐっと力を込めて、言う。
「だからといってデカイ図体が綿入れはんてんなんて着てんな!目障りだ!」
「これは田舎のおばあちゃんが夜なべして作ってくれた―――」
「しるかそんな裏話!脱げそんな手作り品!ジャンバーでもトレーナーでもっ、もっと暖かいもん幾らでもあるわっ!」
三上の血圧がそろそろ心配になった頃、渋沢の目がぎらりと光る。
無理矢理に脱がそうとしていた三上の手が止まった瞬間を逃さずに、「じゃあ」と渋沢は笑顔で部屋の隅のダンボールに手を伸ばす。
「そこまで言うなら試してみよう。このぬくさを」
「・・・・あ?」
「はんてんがどれだけ暖かいか三上も試してみたらいいんだ。ジャンバーでもトレーナーでもフリースでもいい。比べてみて、はんてんの方が駄目なんだったら、俺も脱ぐよ。潔く」
数日前に渋沢の実家から送られてきたダンボール、そういえば「皆さんへ」と書いてあった。11枚のはんてんは色違いなんだとか、渋沢は嬉々として語った。
「・・・年寄りにそんな酷な仕事させんな・・・・」
それ以外の言葉が見つからない三上は深く項垂れる。
とりあえず青を取り出して、渋沢はゴール前の真剣な表情を見せる。PK前、打ち込ませない、その存在感。減りはしないが無駄に使わないでほしい。それも三上の正直な所。
「・・・どうした、負けると思うのか」
挑発されて引き下がる程、三上の男も廃らない。着ていたフリースを脱ぎ捨てて、三上は青いはんてんを受け取った。その綿の肌触り。どこか懐かしい。
「こんなもんに・・・っ!冗談じゃないぜ!」
はんてんが空を切る。
渋沢は微かに笑った。それは決定的なPKを見事塞いだ時のような、どこか会心の。



明日の朝も寒いでしょうと。お天気お姉さんの言う事は毎日同じの冬の日だ。



「・・・・・・・・・・ぎゃははははは何だ三上そのカッコー!渋沢とお揃い!お揃い!?」

松葉寮の食堂はその日、朝から不穏な空気に包まれていた。
はんてんを羽織る守護神と指令塔という不自然な風景に誰もがつっこみを入れたい処なのに誰一人として声を掛けれる勇者はいなかったのだ。
そんな中、空気を読むという行動がまるきり出来ない根岸という存在に、二三軍は酷く救われた。バンバンと三上の背を叩くその無鉄砲さすら、眩しく映る。目尻を拭う者も何人か、確かに居た。
「・・・・・・・根岸」
背を丸めた三上は一度だけちらりと根岸を見遣り、がたりと立ち上がる。根岸は当り前だがびくりとする。周りで見守っていた面々も動けずにいた。
根岸、と三上はもう一度彼の名前を呼んだ。
「おっ、おっ、なーにみかちゃん怒っちゃった?怒っちゃった?」
「・・・これを着てみろ。判るから。きっとお前にも」
「・・・・・・・・・・・・・へ?」
すっと根岸に手渡されたそれは還暦おめでとうの証赤いちゃんちゃんこ―――ではなく。
目にも鮮やかな原色の黄色い綿入りはんてんだった―――。



「・・・思うんだけどね。素直に暖房器具の申請を学校に出せばいいんじゃないのかって。だって俺たち一応強豪で名門私立で待遇良くても可笑しくな―――」
「まぁとりあえずこの木枯らしの中未だ半袖で生活出来る藤代には何の意見も口出せないのは確かだと思うよ」
のんびりと侵食を眺めている二年生コンビはまだこの恐怖を知らない。
はんてんが11枚用意され、その一番下にはメタリックピンクなんて色があるのを、まだ知らない。






@お揃い。


ほんとどうでもよくてそれでいて趣旨がつかめなくてすいません・・・!
何よりもらしい話です。ああ楽しかった。










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