思い知らせてやれ。


試合前、桐原監督が言っていた言葉を三上は口の中で反芻する。
本来は自分達の出る必要も無い地区予選、らしくなく熱くなっているのは正直、監督一人だけだった。開始のホイッスルをトップ下の位置で待ちながら、三上はちらり前線を眺める。ボールを軽く弄びながら、最後の確認か談笑めいて言葉を交わしている藤代と辰巳。その先にはろくに見たことも無い青いユニホーム、桜上水の緊張したその面々がある。
・・・弱小が何、ムキになってんだか。
呆れ混じりに出た溜息は、三上のきっと本心だ。
多少雲が出ているものの、高い空と強い日差し。遮るものも無い地区予選程度の会場じゃ、今日は随分暑くなりそうだ。ロングパスでも多用してみようかと思う。走るの、正直ダルいのだ。
襟元を軽く掴み風を送るその瞬間、高く高く、空に響いた笛の音。
キックオフ、だ。



開始一分も経っていない、三上にボールが回る早々、合図が来た。
元々それは決まっていた、打ち合わせ通りの作戦だ。
相手の士気を下げる為の得意のカウンター。最終ラインまで敢えてボールを戻して、敵を引き付けた上で始まる怒涛の様な連携とパスワーク。黒い津波と誰が言ったか、上手い事をいうものだと、聞いた最初は素直に思った。
カウンターの際の、後ろに戻りつつのディフェンス。
その困難さは三上も良く知っている。元々懸け離れている実力差は明確だから、実際、面白いようにパスは通った。最終ラインの高田からボランチの間宮を通じて、前線に一気にフィード。トップの藤代に通るまで一分もきっとかからなかった事だろう。
桜上水の動揺するその横顔は想像通りで、だからこそ面白くも何ともなかった。
試合前に大きな口をきいていた10番も同じだった。地区予選などこんな物だと、三上も良く、判っている。
藤代の上げたセンタリングは贔屓目無しに絶妙だったけれど、相手のGKも偉いもので、馬鹿じゃなく。派手な金髪を風に揺らして、辰巳のヘディングの前に掴みにかかった。いい判断だと、少しだけ誉めてやってもいいと、口笛を軽く。ぴゅう。


俺たちが相手じゃなきゃぁな。


体勢はそのままで、左に詰めて来た藤代に即座にボールを回すのは辰巳。この切り替えしと視野の広さ。さすがとは思うものの、三上の心中には驚きなどまるで無かった。これが当たり前だ。当たり前だからこそ、三上もボールを送る事が出来る。自信に溢れた、それだけの事をしてきた、キラーパス。
開始二分、先制点。
ちらりと横目で窺うと、桐原監督は満足そうな顔をしている。何だかうんざりとした気分になった。
早く帰りてぇなぁ。
素直に三上は思いながら、リスタートに備えて前を見据えた。
試合はまだ、55分も残っている。







@ひとは誰だって主人公。


フォレストサッカ、という本を出してますが。その最初。三上へん。
原作2〜4巻の対武蔵森戦を、森視点で見たらどうなるか、という話でした。サッカーを文にするなんてねぇ、みたいに言われたからどうしてもやりたくなったんだ。(負けず嫌い)






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