私の仕事は神殿の記録が主だったものでございます。





歴史有り、権威を持って永い時間を、高みを持って各諸国に影響を与え過ごされてきたこの神殿。その歴史を刻むのはこうした私達の様な記録の書付なのであります。書く者が、伝える者が在るからこそ記憶が記録になるのですから。勿論聞く者が居てこその前提であることも確かですが。
それにしてもあの未曾有の危機を超え、こうして異変前とまるで変わらず筆をしたためてもいられる、人間とはかくも強いものであるのでしょうな。


世界が金色の光に包まれ安定を取り戻し、そうして少しの間神殿に留まっておられた銀髪の青年の姿が消えてからわずかばかりの時間が流れてしまいました。
大神官さまは無事な姿でお戻りになり(ただしばらくしたらまた旅立たれるとの事を皆様に通達しておられました。寂しい事です)メディーナさまはそのお体に御子を宿され、神殿随一の人柄をお持ちのエル・トパックさまがお父上になられたり。様々な事柄が次から次へと訪れ、てんわやんわの大騒ぎではございますが記録の仕事としては実に充実した時間を私は過ごしております。
神殿の仕事、と一言で仰るものの、その範囲は限りなく広く、また細々と分類が別れております。私は主に神殿外部―――神官では無い者達の行動の総括を記録しております。他の記録の者よりは外気の空気に触れ、交流も恐らくは多いのだと思います。尤も表沙汰にはならない、させない、神殿の裏を知る者達の事は私の様な下っ端風情の耳にはまるで届かないのですから、それらの事は良くは知らずに比べてしまっているのですが。
話が逸れました。そう、外部の者をお相手している、といっても、その多くはエル・トパックさまのお相手になってしまいます。その内情や歴史の長さの所為でどうしても必然的に閉鎖的になってしまう神殿内において、エル・トパックさまは不思議な存在です。神官になるべくしてなるべき存在であるに関わらず、にっこりと穏やかな笑みを浮かべるだけで、そう勧める数多くの者の声をやんわりとお断りになられてます。私も数度、そのような姿を拝見させて頂きました。
私ごときでは掴み取れない、見識と広いお心をお持ちになられる方です。いいと仰られるなら、それでいいのでしょう。事実、肩書きなどまるで関係なくエル・トパックさまは間違いなく神殿の中枢におられます。

また話が逸れました。
そんな訳で、私の仕事はエル・トパックさまの専属に近い、彼の記録であります。
顔なじみになった付き人の様な補佐の様な青年と二人、揃って会議場の入り口の横に並び、会議の終了を待つのも慣れたものでございました。多忙のあの方はこの会議後、市中の視察と共に最近台頭する鉄の買い付け業の者の監査を密やかに行われる予定です。昼までろくに食事も取らず、精力的に活動される姿を見ると、おせっかいとは判っておりますが思わず予定表に「休息」などと書き込んでしまいたい衝動に駆られます。書付に目をやり、ペンまでも持ち出してしまった処で、隣の彼がぼそり、自分の脳内の言葉を読み取ったかの様なぼやきを零した時はだから随分笑ってしまったものでした。




唐突に扉が開いたのは、そういう気の緩みの後押しだったから。
追いかけてくんな!なんて子供の様な捨て台詞残して駆け出す神官長さまと、追い縋るのも叶わずおろおろと背を見送るエル・トパックさまの姿を確かに目前に入れたとしても、とてもとても現実のものとは思えなかったのです。




「・・・またですか」
「またですなぁ」
ただ起こった事に対しての理解は一瞬で出来る事ですので、当人が目の前にいるに関わらず、二人揃って溜息をつく程度にはこの非現実な風景に私達も慣れてきているという事なのでしょう。
キョロキョロしたり頭を抱えたり意味を成さないうめき声なんかを上げたりされるのは、その姿は間違いなく私の崇拝してやまないエル・トパックさまとはかけ離れてはおりますが、それもまあ可愛らしく思えたりもする今日この頃でございます。
「・・・ああ、もう」
声の主は部屋の奥。最近は神官長付きとも言える、目をやれば片手で顔を覆ってらっしゃるティファさまの姿。頭を抱えつつも彼女の瞬間的な処理能力というのは素晴らしく、その掌の誘導を受け、補佐役の彼はエル・トパックさまに近づき何やらかを囁きます。
柔らかい日差しが窓から差し込んできたのに私は気づきました。今日は朝から曇り空だったのですが、午後はお日様に恵まれそうです。良かった事です。
「・・・すまない!」
謝罪を残して駆けていった、後姿もとうに見えない疾風のごときでしたが、その消えていった方向を眺めながらああ、前回よりも理性が働かれたのが早まられて、さすが彼の方だなぁと思ったままを私が口にすれば、補佐官の方は隣で何ともいえない笑みを浮かべておりました。
お前は本当に、エル・トパックさまが好きなんだなぁと仰るので、皆そうでしょうとぬけぬけと返せば、もう彼は何も言いませんでした。言えませんでした。


激昂も、感情の起伏も、拝み倒す様な謝罪もあればいい。
やんわりとただ笑われていた頃より、ずっといいと思うからこそ、この結果。じゃれ合いの様な喧嘩を騒動を、皆様黙認されるのでしょうよ。妙な休息など取らせずとも、刻み込まれていた眉間のシワが二人揃って消え去ってしまうなら、それでいい。ほとほと甘いと窘められてもティファさまのご負担がそれこそ莫大なものになろうとも、それで、いいのだと私は思います。
私の様な下っ端の刻む記録など、上の皆様方は目に通されてないだけなのかもしれませんが、それでも公式の記録に「兄弟仲、修復中」と書いた処で罰されない、そんなものだからいいのだと思います。









@それにしても平和な世の中になったものです。



・・・何が書きたかったのか、色んなものが霧散してしまったですな。
拍手SSのつもりで書き始めたんですが、どうにも詰まってほったらかしていたのが原因と思われますが。多分、レヴィ側も書かないと訳がわからないのでしょうな・・・!(でも書く気など更々n)
平和な神殿が書きたかったんですよ。それとなかよしになっている、ふたり。








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