多忙な責務にただ、追われていて。
繰り返される目が回るような執務の毎日の中で、何の偶然か一瞬だけ、不意に手が空いた時があった。
かといって十分な休息を取るには短く、無為に過ごすにはそれなりに長く。
そう悩んだ末に、レヴィは了承を得てロワジーの庭へと足を向ける事にした。
思えばまともに眺めた事の無い木々の緑。どうせ僅かな時間の休息だ、心地良い空間に一人、浸るのも悪くないと思ったそれだけで。




「綺麗だな」

唐突に現れた長い黒髪と強い瞳に、強制的に覚醒させられた頭はまるで働きはしなかった。
多少の時間の経過のその上で、未だ寝ぼけた思考。ふるふると頭を震わせて、取り留めの無さを溢れさせてレヴィが漸く搾り出したのは「・・・何が」なんて意味の無い言葉、その一つ。
覚醒し切れないままゆっくりと身体を起こそうとするレヴィを見て、メディーナは不意にふんわりと笑った。肩から流れ落ちた髪は木漏れ日を受けてキラキラと光る。
庭に溢れた緑、鼻を擽る草の匂い。所々ある色とりどりさは季節の花の、生きてる証。
綺麗だな、と彼女は重ねて笑う。
そのままでいいと続けて、ゆっくりと自分の髪についた落ち葉を攫う、彼女の指先こそ綺麗だとレヴィはぼんやり、思ったものだった。



「・・・仕事はいいんですか。エル・トパックと一緒に資材の調達に市内を走り回ってると聞きましたけど」
「丁度終わって帰ってきた処だ。連絡待ちなのもあって、食事の用意を先にと戻ってきたんだが・・・まさかこんな所で神官長が寝ているとはな。・・・少し、びっくりした」
メディーナの声には叱責の色はまるで無く、ただありのままを口にしているといった感じだった。お陰でレヴィも妙な罪悪感を抱かずに済んで、変な居心地の悪さを負わずにも済んで。自然な、感想だけをレヴィも口にすることがお陰で出来た。
多くの木々の梢の隙間から零れ落ちる木漏れ日は、暖かくて、そして優しい。
「・・・気持ち良さそうだと、思ったので」
漸く目も冷め、寝転がる自分とそれを覗き込む彼女の不思議な距離感も理解し始めたものの、今更起き上がり格好を直すのも何だか気恥ずかしさが付きまとう。少し迷って、結局レヴィは寝転がったままで口を開いた。メディーナもくすくすとまだ笑いながら、頓着もなく草の上に座り込んでレヴィの隣で足を伸ばした。風が凪ぐと木々の葉擦れが微かに響く。
そうだろう、と笑うメディーナはどこか自慢気で、面白かった。
「ロワジー様自慢の庭だ。・・・私にはただほったらかしにしているだけに見えるけどな。・・・それにしても、びっくりしたのは本当だ。まるで物語みたいで」
「・・・は?」
「金色の髪が木漏れ日に当たってキラキラと光って。一面の緑の中で、お前だけが違う色をしていて」
髪を突然に触られて、反射で身を縮めたのは慣れてないだけの所為じゃない。
身体ごとレヴィを覗き込んでくるメディーナとの距離は近く、何気無い呼吸音さえレヴィの耳に届いてくる。知らず、動悸が逸る。理由も無くいい匂いなんかも何処からかして、頭の中に自然と異母兄の姿が浮かんで、レヴィは目を瞑った。
ごめんなさいと意味も無く謝ろうとも思ったそんな時に、メディーナはくすくすと、また笑った。
「・・・似ているといえば似てるかな。やっぱり」
柔らかな口調にはまるで色などついておらず、目を開けて不思議そうにするレヴィに向かって、彼女は一人で笑うばかりだった。さっき、そう。エル・トパックが来ていたのだと。
「座って酷く柔らかい顔をして、やっぱりこうして髪を摘んで笑っていたぞ。私に気付いたら、何だか逃げる様に行ってしまったが。・・・二人並んでいるのを見て、とても綺麗だと思って―――」
彼女の言葉は最後まで形にならなかった。
いや、正確に言えば耳に残る形にしなかったのはレヴィだった。
何の脈絡も無しに立ち上がり、駆け出して。羞恥や居辛さ、今にもエル・トパック!と叫び出しそうな勢いのまま、感情を素直に表情に出した。そんな神官長の横顔を見送って、メディーナは緑の庭にごろりと寝転んだ。
成る程確かに気持ちいい。
ふぁぁ、と欠伸を零すと風がまたさらさらと髪を撫ぜていく。



「・・・可愛いと、思ったのだぞ」
仲の良い、兄弟なのだと、そう。
緑の木々を当人達の身代わりにして、メディーナはまた、くすり笑って、眼を瞑った。






@きれいなきれいな。


起こすのがしのびなかった、寝させてあげたかった、でもちょっとだけちょっとだけ眺めてもいたかった。
駄目な兄馬鹿で一つ。

そうして読み返して一つ、時間軸のおかしさに一人首をひねり、えーと第二の神殿にもロワジーの館があって、そんであんなふうにジャングルになってるということにしてください。(適当なことをいうな)(すいません・・・)











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