目を離していた。
 ある意味妄信的に、選択肢をただそれだけと判断し向かい合った。足蹴にした。引きずり出した。
 気をつけろと自分が言った再生能力、考えてみればすぐに判る事だった。その結果がこの血だらけの左腹。使い物にならない右の、てのひら。
 一対一の僅かな均衡の間に出来た、細かな身体の傷つきも含めてみれば、ある意味彼より傷は深かったとは、言えた。


 目を、離していたんだ。
 突如破られたギリギリの均衡は、崩れた自分の身体なんかの所為でもなく、針に通す糸の様な正確さとそれでいて躊躇いも無く相手の頭を射抜く、そのライフル音。
 こんな狙撃手、私は二人しか知らない。



「・・・酷いわね、これが恋人に対する仕打ち?」
 額を射抜かれたと云えどもよろめいたのはほんの数秒。血が未だ流れている頭を振りつつ、ウロボロスの女は壁に背をつきようやっとの思いで立っているハボックに向かって笑った。
「優しくしないと嫌われちゃうわよ、ジャーン?」
 蜂蜜でも溶かした様な甘い声に蕩ける様な色香と表情。溢れ出す魅惑さは酷く場違いで、ハボックの顔に浮かぶのも嫌悪と舌打ち、それと。あからさまな、その焦燥。
 立ち続けるだけの、言葉を発するだけの、体力が残ってない事はすぐに判った。顔が酷く歪むのは、決して苦笑の所為だけじゃないのは、良く、判った。
「・・・あいにく優先順位が決まってる狗なんでね。器用じゃなくて、悪かったな」
「そういう無骨な所も好きだったわ、よ―――?」
 すぅ、と女が身動きすればすぐに撃ち抜く。
 大した度胸だと思った。自分が選んだ、選び抜いた信頼すべき部下。後ろ背を守るその確かな実力は身を持って知っていた筈なのに、それでも何だかまるで見覚えなくて。微妙な表情を自然向けてしまったのだろう、彼は一瞬だけ困った様な顔をして。
 それから顔を歪ませて笑った。


「・・・男に見惚れてるなんて、らしくないっスよ」


 お互い満身創痍。恐らくはもう弾も少ない一本だけのライフルと濡れてろくに役に立たない発火布。武器はたったそれだけで、この人間外と対峙する、その絶望さはまるで変わっていなかった。
 それでも、腹筋を使って響いた痛みに顔を歪ませながらも、それでも。自分も、笑えた。
「・・・お前帰ったら軍法会議所行きな。侮辱罪だ侮辱罪」
「うわっ、それが瀕死の身体をどうにか動かして、上司のピンチを救った部下に向けての言葉っ・・・ス、か」
「言っておくが先に倒れたのはお前だぞ。この私に心配させたんだ、相殺してもらえるだけ有難く思え、っよ!」
 お互い目も逸らさずに前を見て。
 間合いを取りながら、攻撃をすんでの所で避けながら言葉を交わす。他愛の無さは、安堵の為だ。まだ大丈夫。意識はぐらつくし血も止まりそうもまだ無いけれど、でも。―――今は、まだ。

 目で合図するまでもなく、気づけば二人同時に駆け出していた。染み込まれた運動能力と反応は間違いも無い狗の習性。
 あってよかったと、多分初めて思ったよ。






ハボックは強いこだぞ編。
いえ、この前の奴があまりにあまりだったので…つい。都合がいいというのは判りきってますがどうか一つ。ハボソラで。(ええ?)












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