ここまでか。
 捕らわれたままの体勢で、薄れていく意識と共に手放そうとしたものは、自分の中でそう小さなものでは決して無かった。
 容易に、安易に歩んできた道など存在しない。
 たかが人一人の背を押す為には多大といっても大袈裟では無い犠牲。蹴落としていった人々。歩んできた後ろ、自分が振り撒いて来た焔に良く似た、赤い血潮。
 唯一無二とも言える、言えた、親友さえも置いてきた。
 立ち止まらずに駆けてきた。此処まで、振り返らずに。振り向きもせず。ただ、前に、手を伸ばして。

 けれど。
 それでも、そう思うだけの。伸ばし続けてきた手を腕を、下に下ろすだけの理由になる、そんな状況としては十分ではないかと今はただ、思えた。
 熱を吐き続け、服に赤い染みを広げ続けていく左腹と捕食されていく右の腕。
 見えにくい眼下、もうぼんやりとしか見えない動かない部下の姿。


 ハボック。
 薄汚れてしまった金の髪と今は見えない青い瞳。
 似ても似つかないのに、今は遠い黒い髪の誰かと重なった。
 また失う。今度は、よりによって目の前で。ついさっき、届いたと思ったのに。また。・・・また。
 ふざけるな。



「・・・ふ、ざけるなぁ!」
 搾り出した怒声は鋭さを持って敵を正確に仕留める、頼れる銃声と綺麗に重なった。



「・・・今度は私の番ですね」
 恐らくは一回「死んだ」のであろう、ウロボロスの動きが止まったその一瞬を見逃さずに駆け寄り、体躯を生かして抱き上げてくれた腕。アルフォンス・エルリック。表情の無い筈の鎧の顔が、ほっと安堵の息を吐いたのが何故だか判った。
 まだ力の入らない喉をどうにかしゃくり上げさせ、咳き込みながら小さく礼を言う。それからすぐに手を離し、拒絶では無い事だけはきちんと伝えて、未だ倒れたままの部下にすぅ、と目をやった。
 子供だというのに彼は酷く聡く、小さく頷いて向かってくれた。彼の繊細な練成を何度か見た事がある。自分よりきっと、期待めいた憶測もきっと含んでいるのだろうけど、きっと。治癒めいた練成が、向いている。
 軽く息をつけば、途端気が抜けたのか身体がぐらり、よろけた。
 凭れた先の温もりに、思わず目も瞑りそうにもなる。此処まで、きてくれた。


「・・・ご無事で。良かった」
「・・・本当に逆だ。心配かけて、すまないな」
 爆音に招かれて駆け寄った、息も絶え絶えに、でも間に合った。そこまで同じ。二人、自然と苦笑して。揃って重ねた。
 そうしてまだ生きている敵に二人、揃って。攻撃の構えをそれぞれに正して、背も、正した。





助けにきたよ編。
ラスト、という本編において欠片さえも隙の無い存在に対して対抗するにはと考えて、迷う事無く無能一人じゃ駄目!と思ってました。ごめん。
振り向きもしない足も止めない、「無事でよかった」「御心配おかけしました」あの会話。大好きです。










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