死んでしまうんだろうなぁと思った。
これまでもそう思った事は幾度もあったし、その度に生き残っちまったなぁと肩を竦めて笑ってきた自分、そんな日々だった。
安い地ビールを体中に掛け合い、美味くもないつまみを腹に送り込み、死にぞこないめ!と馬鹿笑いをする友人に背を叩かれる。
隣り合わせに生きている、こんな軍人なんて存在だからこそ、生きている事実を真摯に受け止め、噛み締める。ただそれを素直に表に出すのも気恥ずかしく、代わりの様にビールを煽って。ジョッキを空にして。重ねてきた日々。
随分好きだった、喉を通り抜けるあのキンキンに冷えた味。
どこかの誰かのお陰で溜まりに溜まった書類を半眼のまま片付けて、夜勤の者の恨みがましい視線をスルーしながら繰り出した酒場で飲んだのも、そういえば同じだったと思う。遠慮も無く愛すべき上司の悪口を同僚と口に乗せ。ほの暗い照明を受けてぼんやり光る、彼女の金の髪は、苦笑は綺麗だったのを覚えている。
珍しく上がりが重なって(てゆうか本来この人の仕事な筈のものを皆でやっていた訳で)珍しく部下の誘いにも乗って安い酒場までその御足を運んで下さった上司の、不機嫌だけど噛み付いてやれない微妙な顔が、面白かったのも。覚えている。
嫌だなぁと思った。
死ぬというのは、あの空間に空気の中に、自分が居なくなるという事だ。
ブレダと顔を突き合わせて意味も無く笑うのも、ファルマンの薀蓄を判った顔で頷いてでも聞き流すのも、気にし屋のフュリーの背中をぽん、と押してやる事も。
どうしようもない人っスねぇと相槌も求めて振り返った先、肩の力を抜いた優しい微笑みと同意。多分、他の奴等は誰も知らない、どうしようもないのよね、なんて蕩けてしまいそうな彼女の、声、も。
届かない。
もう、出来ない。
…側近二人、お互いにお見通しな関係も繰り返し重ねてきた日々。金の髪二人、囲まれつつもなお果敢に逃亡を試みる上司の黒いあの髪に、ペイント弾を食らわすのは、自分の密かな楽しみだったのに。
もう上手く開けない眼をどうにか動かして見れば、無能な筈の上司は何故かまだ、無能じゃなかった。
発火布は濡れ援護すべき部下は血に倒れ。腹からも未だ血を出しながら、たった一人で敵と対峙している、絶望的なその状態に、彼はまだ少しも諦めていなかった。
前を見据える真直ぐな眼。
・・・そういえばその眼一つに騙されて、こんな処まで自分は来てしまったのだったっけ。
本当は、二度と身体を動かす気なんて無かった。
ほんの少し身じろいだだけで血液が逆流したりするけれど、身体全部を叱咤して。前を、見た。
例え自分の知らない処で耳に入れられない、それこそ死んだ後だったとしても。あの上司に「無能」なんて言われるかもと思えば、死んでも死に切れないから前を見た。
ハボックはからだの半分が楽しさで出来ています。もう半分は、悔しさ。
ガンガン発売まで後数日、という所で、どんな結果になっても受け入れようと心に決めて、それでも書いたのは書きたかったのは彼の意志で立ち上がる、生き延びる話でした。みんなのために。
それにしてもうちの軍部はなかよしすぎる。
とても気に入ってました。書けてよかったと思った。たとえ、本誌とまるで違うベクトルだとしても。
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