右手をまるで覆いこむかの様に、捕り込む様に。
 再生していく女の身体の軋む音と、自分の身体から零れる、流れる血が地面に届く音を耳にしながら、ロイはそれでも笑みを浮かべた。



「侮るな」
 至近距離で貫かれた左腹。音も無く倒れた、傷ついた腹心の部下に、その時全ての気を取られてしまってたのは本当だった。
 電話越し、途切れた声を何度も何度も呼びかけたのすぐ数刻前の事。途端、目の前に広がったあの赤い色には嫌になる程見覚えがあった。
 覚悟はとうに決めていた。後ろなど振り返らないと、墓標に誓ったのはもう随分昔の事の様に思える程に。前を見据えて顔を上げ、最後には笑みさえ浮かべたあの雨の日の気持ちはそのままなのに、それでも二度と、繰り返さないと一人、誓った。誰にでも無く。多分それは、誰の事でもなく。
 失いたい、訳があるか。
 口には出さず、でも確かに呟いて。真っ赤に染まった白の掌を、気づけば強く握りこんでいた。
「覚えておけ、私はロイ・マスタング・・・っ、焔の大佐だ!この右手一つで此処まで上り詰めてっ、きた!」
 発火布に書かれている練成陣と賢者の石、例え手を腕を肉片の一部として取り込まれしまおうとも、その二つさえ触れ合ってしまえば問題など何一つ、無い。
 人体の中に存在する、形成するが上に必要な水、約35L。
 沸騰点など、容易い数字だ。


「・・・安かろうよ、片腕など、な」
「―――馬韓っ・・・な・・・っこ・・・・・・!」
「ああ馬鹿だ。馬鹿だとも。・・・そうでなければこんな望み、抱きはしない」
 失うものか。もう二度と。目の前でなんか殺させない。
 唇が酷くべとついたのは、それは多分、今は遠い東の地で感じた人の脂分。炭化した肉の匂い。重ねて浮かべていた笑みに、気づくのは少し、何故か遅れた。
 焼け焦げた右腕は、多分もう。使えまい。


「等価交換だ」
 それは、錬金術師の大原則。
 どす黒く汚れた金の髪は、相変わらず身動き一つしなかった。




大佐だって強いんだぞ編。
原作見ればうっかり惚れ込んでしまいそうな彼ですが、何かこう、役立たずなイメージばかりが…そんな払拭の為に。
段々と数を重ねていく内にあからさまに長くなる内容でしたが、この頃はまだテンポを大事にしてましたな。
まだ鋼の話をそう数を書いてなかったのですが、好きだと言ってもらえて嬉しかったです。




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